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※一部、無双3のネタバレがあります。
時間軸はぐちゃぐちゃです。考えたら負け。

 

 

「無双3が出たので、ウチの城も随分様変わりしました。どうぞお気をつけて」
 
恋人から送られてきた用件のみの書状には、今更打ちひしがれなどしない。
そっけない内容の書状なんて慣れているし、あの幸村がお気をつけて、なんて書いてくれただけでも上出来だ。心からそう思っている政宗が本当に打ちひしがれたのは、その中身だった。
 
「釣り天井に落とし穴、歩けば爆発する階段に四方八方から飛んでくる謎の刃物に加えてか…!」
 
城主・真田昌幸の趣味でどんどんえげつなくなっていく上田城の罠は、ここに来て更なる進化を遂げたらしい。(なんと迷惑な)
いやもうあれは趣味などという生易しいものではないぞと政宗は思い返しながらぞっとする。
 
死に物狂いで罠を掻い潜り、愛しの幸村の部屋に何とか辿り着けるようになったのは暫く前のこと。
夜具に身を包み、正に据え膳状態な幸村にやっと巡り会えたのに、最初の頃はあの罠を掻い潜ったという疲労と訳の分からぬ(いっそ、その場で倒れてしまいそうな)達成感が勝って、なかなか手も出せなかった。
辛うじて睦み合う体力を残して幸村の元に辿り着けるようになったのは一月ほど前のことで、それでも先日は何処かに油断があったのだろう、自慢のマントを根元からすっぱり切られてしまった。
どうせ衣装を新調しようと思っていた矢先だったから、それは不幸中の幸いと言えるのかもしれないが――あと一歩遅かったら、マントじゃなくて首が飛んでた。
 
大名同士の諍い事は固く禁じられておるというのに、全く儂に何かあったら太閤にどう申し開きをするつもりじゃ。
政宗は自分のこと――禁じられてはいないけど、奥州王ともあろうものが、軽々しく上田くんだりまで夜這いの為に出掛けていくことだとか、惣無事令を無視しまくった挙句自分が陥った諸々の危機だとか――を棚に上げて思う。
思うが、無論そんなこと政宗が忍んで行くことの障害にはならないのだ。いくら上田城がこの上ないくらい凶悪な城に姿を変えようとも。
 
 
 
が、昌幸は、政宗の想像う以上に新しい罠に浮かれていたらしい。
上田城の見慣れた筈の堀を見た瞬間、政宗を隻眼を見開き、その直後見事に膝から崩れ落ちた。
 
「これって水に流して使うものじゃろう?!何じゃ、この無駄な罠は!」
 
聞く者は人っ子一人いないのに、政宗がそう叫んでしまったのも致し方ない。
 
水が滔々と湛えられてしかるべき堀は、焙烙玉で埋まっていたのである。そりゃもう、隙間なく。びっちりと。
時折焙烙玉同士がぶつかり合って起こる、全く無意味な爆音が、こっちにまで聞こえてくる。
 
ほうほう、信長公がこんなものを作ったか、早速わしも取り入れてみよう、とか何とか言いながらあの昌幸めは嬉々として、かつ全力を挙げて焙烙玉の生産に取り掛かったに違いない。
真田家唯一の常識人である信幸(幸村も、そこそこ常識はあると思うが、父の悪戯好きにも困ったものです、と言いながらも罠に使う刃を研いでいる姿を見てしまって以来、幸村もあの父の子だという印象がどうしても拭えない)も止めきれぬくらいの勢いで。
その結果が、この堀だ。
 
「いや、儂、別に堀を泳いで進入せんけどな。普通に門から入るがな。つかこんな堀渡っておったら、命が幾つあっても足りぬわ!」
 
そう言いながら門を抜けようとした政宗の足元からは、オーバーテクノロジーも甚だしいモーター音。
と同時に地面ががくりと動き、政宗の身体が大きく傾ぐ。
 
「何じゃ、このベルトコンベアーは!」
 
大体こんなもの戦国無双にはなかった筈である。
幻聴だとは思うが「大陸から輸入してやったわ」という昌幸の高笑いが聞こえるようだ。
強制的に後退させられるだけならまだしも、くぐらねばならぬ門の両脇からはすげえ勢いで火の玉が飛んでくるし、後ろを振り返ればそこには真田のお家芸、落とし穴がぱっくり口を開けている。
昌幸め、やり過ぎじゃろうが!
せめてそう罵ってもやりたいが、足を滑らせれば堀に真っ逆さま、後は見事に焙烙玉と心中である。
 
やはり、昌幸の罠に無駄なものなど何一つないのだ。(焙烙玉の数は多過ぎると思うが)
 
人ん家の、しかも既に天下人になった家康の城に勝手に火を付け心中すると泣き喚いた兼続にも吃驚だが、自分の家の門、しかも大手門を業火で覆いつくそうとする昌幸には、驚きの余りもう声も出ない。
ついでにこんな大騒ぎを門前に繰り広げているにも拘わらず、これ日常と言わんばかりに寝静まっている上田城の面々にも。
 
 
 
自慢の俊足で何とかベルトコンベアーを振り切って、背後で不気味な爆発を繰り返す焙烙玉を無視し、火の玉をすれすれで避けながらも(折角伸ばした前髪が、ちょっと、焦げた)侵入した城の内部は、そりゃ凄かった。
 
従来の罠に加えて、奇妙な丸い仕掛けからびりびりした玉がぎゅんぎゅん飛んでくるのである。
それを掻い潜ると今度は足元に火がついたように、城内が暑くなる。
つか、文字通り、足元には火がついていて、もしも政宗に自分の体力ゲージが見えたなら、己のそれが凄まじい勢いで減っていくのが分かっただろう。
しかも壁にはご丁寧にも「幸村の部屋、此方」という矢印付きの道標まである。
あの下手糞な、いやもとい、政宗にとっては何よりも愛おしい幸村の筆跡では勿論なく、恐らくはあの糞城主の手によるものである。つまり、この道を行かないと辿り着けないぞ、罠が一番酷いのもこの道じゃけどな、という意味で、分かっていても政宗は、もうこうなりゃ独眼竜の意地見せてやると半ば泣きながら突っ込まざるを得ないのだ。
 
 
 
一体何処から調達してきたのか、毒の霧を発生させる花だとか、壁を上下に移動する火を噴く装置とか、城の廊下の中央に鎮座しているどう頑張ってもすり抜けられない大岩とか、そういうものを掻い潜って政宗は進む。
 
間一髪で炎を回避した後は、右手から矢が飛んできて、左に避ければ落とし穴。その穴の中には毒花が咲き誇っていて、毒の花弁を毟り取った後落とし穴から、畜生、昌幸めと這い出てみれば、その着地点を狙ってびりびりした正体不明の玉が飛んでくる。
もう正直、自分が何の為にこの城に侵入しているかすら分からない。
だが思わず力尽きそうになったその足元には「幸村がお待ちかねじゃぞ」と張り紙がしてあるのだ。
 
ここまで言われて引き下がったら男が廃る。
 
「いっくら新しい罠を試したいからって、自分の息子、しかも幸村様の身体をダシにして伊達の殿サマを誘き寄せる昌幸様も昌幸様だけどさ」
「いい加減諦めない政宗殿も政宗殿だな…城の外に出れば幾らでも会えるのに」
「もしかして伊達の殿サマがギリギリでも罠を避けられるのは、あの二人思考回路が似てるからじゃないの?」
「くのいちもそう思うか。あの二人の根拠のない自信溢れるところや、自分で自分のことを食えない知将と思ってるところなんてそっくりだ」
「そうそう、素直じゃないし、性格悪いし」
「しかもそれが自分的には満更でもないと思っているところなんか」
 
遠くから響く大筒の音をBGMに、幸村とくのいちが呑気に菓子を食いながらそんな話に花を咲かせているなんて、当の政宗どころか昌幸ですら露知らず。
 
「あの昌幸のことよ、苦労して辿り着いた階段に今までで最もえげつない罠が仕掛けてあることなど、この独眼竜はお見通しじゃ!ほらな!儂、正解!」
 
ごろごろ転がって爆風を避ける政宗の姿をモニタで見ながら「伊達の小倅め、えげつないとは言いよるわい。ならばご期待に沿ってあの箇所はもう少し罠を強化しておくか」と昌幸が呟いたことも、誰も知らないのだけど。
 
 
 
 
 
そんな調子で政宗が、満身創痍ながらも最後の団子を咥えつつ、幸村の部屋の前に到着したのは、それからゆうに二月後。
毎日毎日ご丁寧にもマイナーチェンジし目に見えて増えていく罠を、来る日も来る日も掻い潜り、夢にまで見た幸村の許に辿り着いた政宗は、一瞬勝利ポーズをしようと思ったが、多分その瞬間を狙って毒矢が飛んでくるであろうから、そのまま静かに、なるべく素早く襖を開ける。
 
案の定、背後から聞こえてきた、矢が勢い良く板の間に突き刺さる音の中、部屋の中央に座っていた人物を認めた政宗は、思わず刀を抜いた。
 
「な!ここは幸村の部屋じゃろう!何故貴様がここにあるのじゃ、昌幸!」
「もうここまで辿り着いたか、お主もなかなかやるのう」
「儂の質問に答えろ!儂は貴様に会う為にあんな死に目に遭うた訳ではないわ!」
「ケツの青い若造と、自分の可愛い息子との逢引を諸手を挙げて手引きする親が何処に居るか」
 
そりゃ道理なのだが。
昌幸が言うとどことなく胡散臭さが拭えない。つか、絶対嘘じゃろう。
刀をぴたりと構えたまま、政宗は素早く四方に目を配る。この瞬間、何処からか爆弾が飛んできてもおかしくないのだし。
 
だがそんな政宗の警戒を嘲笑うかのように、部屋の内部は静まり返ったまま。(遠くから炎が燃え盛る音はしたが)
 
「お主の武功も、度量も知っておるつもりじゃ」
 
やれやれ、と昌幸は嘆息する。
 
「そなたが、あれを想うてくれておることも、あれがそのことを憎からず思っておることもな」
 
力なく笑う昌幸に、政宗は思わず刀を収めた。愚かで身勝手な親心よ、昌幸は呟く。
そういうものだろうか、でも、本当にそんなものかもしれない。この戦国乱世、何処でどう状況が変わるかなんて分からぬのだし、ましてや自分達には捨てられぬ立場もある。
仮にも独眼竜と呼ばれた男が、たった一人の想い人の為に、無様にも床を転がり階段から突き落とされ、必死で矢を弾き返し、落とし穴から這い出る姿を見たかったのだろう。
(趣味ではないと断言は出来ぬが)自らの城を罠だらけにしながら。
 
「もし、そなたが途中で諦めるようであれば、わし自ら出向いて願い出るつもりじゃった。あの子のことを見捨てんでくれ、と」
「…儂がこんなことで諦めるとでも?」
「そのことよ。お主の覚悟は見せてもらった。親としてはこんなに嬉しいことはない」
 
どうか、あの子を導いてやってくれ。出来ればずっと傍らにおいてやってくれ。
三つ指ついて頭を下げ、搾り出すようにそう言った昌幸に、政宗は駆け寄る。
 
血の繋がりなんかあっさり切り捨てられそうなこんな乱世だけど、親の願いなんてそうそう変わらぬのだ。
昌幸も――恐らくは自分を殺さんとする息子の号令に、小さく頷き散ったあの父も。
 
「…昌幸殿、儂は…」
 
「――なーんてな」
 
政宗の足元が崩れたのは、その直後だった。
 
「この真田昌幸、腐ってもそんな殊勝な台詞は言わぬわい」
「な!この糞親父!」
 
足元にぱっくり開いた落とし穴に呑み込まれながら、政宗は必死でもがいたが、何もかもが遅かった。
体力と反射神経と勘と、ついでに少しの運を駆使して登り詰めた筈の城の最上階から、政宗はあっさり弾き出される。
上から、奇妙なほどに真面目ぶった昌幸の声が降ってきた。敗北感に打ちのめされながらも政宗は苦笑する。正確には、苦笑いしか出来なかった。
 
「小倅め。糞、は余計じゃ」
 
昌幸の声は、確かにそう告げていたので。
 
 
 
 
 
その後、上田城の罠は減ることもなかったが増えることもなかった。
それは有難いがどうせなら全部罠を外せ、あの馬鹿親父の好意は分かりにくいんじゃ。ぶつぶつ漏らしながら挑んだ幾度かの挑戦の後、やっと幸村に出会えた政宗は、無事を喜ぶ情人になるべく感情を殺してこう告げる。
 
「親父に言うておけ。貴様の罠すら掻い潜って、今度こそ儂は幸村に会いに来たぞ、と」
 
分かっているのかいないのか、幸村は小首を傾げて笑っただけだった。
でも嬉しそうでしたよ、と。政宗殿が自分の罠に付き合ってくれるから、きっと嬉しくて堪らないのでしょう。
 
確かにそれもそうじゃろうが、正確にはそれだけではないぞ。政宗は、うっかり負った矢傷の痕を幸村に介抱して貰いながらこっそり思う。
あの糞親父の罠さえ潜り抜けられれば、世の中の大抵の難関など、難関ですらないわ。
 
「もう手当てなどよい、幸村」
 
そう言って戸惑う幸村の手を取れば、幸村がそっと息を呑む。
 
日ノ本一性格の悪い、恐らくは自分に酷くそっくりな、全くもって素直じゃないあの親父の罠を潜り抜けた先のご褒美は、最高だった。
 
 
 
 
 
~おまけ~
 
 
 
いいや、わしは絶対東海道を行く。中仙道は秀忠、そなたに任せるぞ。
 
天下分け目の決戦前、その総大将とも思えぬ軽々しさで激しく駄々を捏ねた父を、秀忠は不思議そうに見詰めた。
 
「真田も怖いが、昌幸の罠はもっと怖い。政宗から聞いたわい、あの城が如何に恐ろしいかを」
 
上田を攻めた経験を持つ父が、真田を警戒しているのであれば、それは正しいのだろう。
気を引き締めてかからねばならぬが、何故伊達の名が。
そんな疑問を感じつつ、短気を起こして、昌幸め!と地団駄を踏む父には何も聞けぬ気の良い秀忠のことだから、昌幸の交渉相手としては全くもって役不足で、上田を取り囲んだ徳川勢を騙すなど昌幸にとっては赤子の手を捻るより簡単だったに違いない。
秀忠は、真田側から城を明け渡す条件として出された「数日の猶予」という言葉に、一も二もなく頷いてしまったのである。
 
曰く、城の大掃除をし、ついでに罠を外すのに、三日はかかる。
 
成程、父上が仰っていた罠とは、城内の罠のことであったか。恐ろしいとの噂だが、それを外すというのだから大事あるまい。
 
 
 
けど秀忠はまだ知らない。
既にすっかり肩身の狭い思いで徳川陣営に属している信幸が、東海道を進軍する家康が、そして昌幸の恐ろしさを誰よりも良く知る男が奥州で「あの罠が三日で外せる訳はない!嘘じゃ、嘘!」と確信しているのを。

 

 

村雨城は、上田城だと信じてる!3の上田城には罠がなくて寂しいです。
親父と婿殿も相変わらず。あの二人は嫌なところで似ていると思うのです。幸村も大変です。

ついでに上田に紛れ込み「ここは…村雨城でござるか!」と勘違いする鷹丸も出したかったのですけど、
これ以上混沌にしてもしゃーないと思い諦めました。
(09/12/22)