※ひどい話です。許してください。
「山犬が格好悪いという苦情が相次いでいる!」
右手に三成、左手に左近を引き摺り、政宗の部屋に踊り込んできた兼続は、開口一番そう言った。
何じゃと!と腰を浮かしたのは政宗ばかりで、先程まで政宗の枕に、と膝を提供していた幸村(仲がお宜しくて結構なことだ)どころか、兼続にずるずると引き摺られていた三成も左近も涼しい顔だ。だって兼続の発言は確かに間違いがないことだったし、兼続が唐突にしかも強引に他人を巻き込んで何事かをしようとするのには(そしてその為に三成を引き摺ったり政宗の部屋に踊り込んだりすることについても)慣れたものだったから。
幸村は、「五月蝿いわ、兼続め!」立ち上がり叫んだ政宗が今しがたまで自分の腿の辺りに作っていた痕跡を消すかのようにぱんぱんと着衣を払い、左近は兼続に引き摺られた所為で少し埃まみれになった主の汚れを落としてやる。三成は大人しく、左近のされるがままになっていた。
そんなほのぼのとした雰囲気を劈く兼続の声は、ちょっと異常に聞こえる。
「山犬の格好悪さについては最早常識、致し方なしと諦めていた私であったが、それこそが不義ではないかと先程急に思い立った!よって今から皆で山犬の格好悪さについて真剣に討論しようと思う!」
「…討論して何とかなるものなら、とっくに何とかなっていると思うが?」
兼続に引っ張られ少しだけ緩んだ襟元を整えながらの三成の発言は、いちいち尤もだ。
どころか幸村までもこんなことを言い出す。
「そうですよ、政宗殿がアレなことに関しては、もう仕様がないのではないでしょうか?」
「…アレってどういうことじゃ、幸村。はっきり言え、はっきり」
「何のことはない、兼続さんの唯の嫌がらせと暇潰しじゃないですか」
「フギ―――!!!」
けたたましい雄叫びと共に兼続が無意味に無双を放った。
完全に間合いを見切っているのか、少し離れたところで見守る幸村と、咄嗟に主を庇ってガードする左近。三成は左近の背中に隠れ、慣れた様子で耳を塞いでいる。三成にとって警戒すべきは兼続の無双によるダメージそのものではなく、兼続が発する轟音による鼓膜へのダメージだ。
唯一まともな反応を返したのは政宗だけで
「ちょ、待て!儂の部屋のものを壊すな!」
だがそんな政宗に見向きもせず、兼続は気持ち良さそうに札をびゅんびゅん投げまくる。
「魔を斬らん!…おっと私としたことが感情が高ぶってつい無双を出してしまった、これは面白い!それはさておき、山犬が非常に格好悪いという今日の議題であるが!」
「無双って高ぶって出るものか?!餓鬼が急に奇声を上げるような類のものじゃったか?!」
今無双を出す必要が何処にあるのか、兼続は一体何を面白がっているのか、「今日の議題」とまるで決定事項のように話を進めているのはどういうわけか、そもそも昨日も今日も明日も議題なんて必要なかろう。
政宗はそこまで思ったのだが、さすがに全部は突っ込みきれなかったので、彼なりに絞った疑問をぶつけてみたのだが、兼続は勿論スルーした。奥州王だろうが独眼竜だろうが、政宗の立場はこの中で、割と低い。
「皆、忌憚なき意見をどんどん出してくれ!山犬の格好悪さを上げまくって笑お…もとい!幸村に相応しい格好良い山犬に矯正してやろうではないか!」
「な!儂はもともと幸村に充分相応し」
「義なき山犬にも義をもって接する!これこそが私の義!最早手遅れだと匙を投げ出すそなたらの不義、謙信公が許しても、この直江山城守兼続が許さぬぞ!」
どうやら無双直前の「不義」という兼続の叫びは、政宗ではなく、三成や幸村、そして左近に向けられたものだったらしい。滔々と話すくせに、つい自分の気分が勝ってしまうので、兼続の話は非常に聞き難いのだ。
「兼続殿、今日は本当にお暇だったご様子ですね。無双まで放って私たちを巻き込もうなど」
「暇だからって、やって良いことと悪いことがあるじゃろう!」
「そのようだな幸村。幸い俺も珍しく暇だ。政宗の格好悪さとやらがこれで直るとは思えんが、戯れに付き合ってやっても良い」
ぱちりと鉄扇を鳴らし、三成が寛いだ様子でそう告げる。
「…左近はちょっとだけ忙しかったんですけどね…痛い!殿、痛いです!もみあげを引っ張らないでくださいよ!分かりましたから!」
左近もあっさりと暴力に屈した。山積みの仕事より、主の八つ当たりの方が面倒、且つ怖い左近である。
「おお、皆!私の義に感じ入ってくれたか!では早速、山犬の格好悪いところを挙げていこうではないか!」
「だから余計なお世話じゃ!幸村とて儂に満足しておる筈!貴様らに格好悪いだの何だの言われる筋合いなぞは、な」
「はい!」
政宗の言葉を遮って元気に手をあげたのは、誰であろう、幸村のその人だった。
参観日に教師に当てられぬように小さくなっていたが、自分でも分かる設問に嬉しくなって途端に手をあげる小学生のような表情で。
「何で貴様が真っ先に挙手するのじゃ!」
「ふむ、幸村!」
兼続が重々しい表情で幸村を指名する。律儀な幸村は何故かすっくと立ち上がり、幾分か誇らしげに答えた。
「政宗殿は、すぐにうろたえるところが、ございます!」
「な、何を言うか、幸村!儂はいつだってどっしり構えてな、こう、揺るがぬように、常にお主を抱きとめられるように頑張って…」
「そうやって結局口ばかりです。そんな政宗殿なんて、嫌いです」
珍しく強い口調の幸村に、三成が、ほう、とばかりに片眉を上げた。が、すぐに表情を戻す。幸村の声に本気ではない響きを感じ取ったのだろう。
すっかり仕事のことは諦めた左近も面白そうに顎を撫で、余裕がないのは政宗のみ。
「き、きら、嫌いって、まさか!そんな!幸村!嘘じゃろう?!」
「嘘です。ほら、うろたえました」
きゃらきゃらと笑う幸村に、がっくり項垂れる政宗。
少しだけ面白そうだと観察していた左近だが、如実に過ぎる政宗の反応に、少し同情を隠しきれない。左近はいい人だ。
「なるほど!非常に義溢れる分かり易い意見だったぞ、幸村!」
政宗をこき下ろすことが楽しくて仕方ないのか、弟のように可愛がっている幸村が意見を述べたことが嬉しいのか、友(とその家臣)が自分の思惑に乗ってくれたことが楽しいのか(多分、そのどれもだ)、兼続は実に満足気な顔で何処からともなくホワイトボードを取り出した。
そこに流暢な文字で「うろたえもの」と記す。議論(というか揚げ足を取るのが、だけど)好きな三成が口を挟んだ。
「待て兼続。先程幸村は政宗のことを口ばかりと評していた。それも格好悪い一因を担っていると言えるのではないか?」
「ほう。そこに気付くとは三成、なかなかのものだな!だがどういった根拠でそんな言葉が飛び出したか、検証せねばならぬ!」
皆の視線が一斉に幸村に集まる。
「貴様、どっちの味方なんじゃ、儂じゃよな?」という政宗の懇願と、「具体的にはどういうことだ」という三成の催促と、「何でこんなことに自分が巻き込まれているのか未だに分からないが、兎に角あんまり酷いことを言うと政宗さんが可哀想ですよ」という左近の困惑。三種の視線を受け、幸村は、ぷうと頬を膨らませた。
「上田にいらした時、毎晩私の部屋に来てくださると仰っておりましたのに、ちっとも来てはくださいませんでした」
まさかそんな秘め事を口にされるとは思ってもいなかった政宗が、一瞬慌てる。最も素早い反応を見せたのは、やはり兼続だった。
「それは不義!いや、不義などという生やさしいものではない!どきまぎしながら夜具に身を包んでいたであろう幸村に、謝れ!謝れええええ!」
「いや、それはな!致し方ない事情があってだな!」
「約束を破るのは格好良い悪い以前に不義ではないか。夜の予定が明確に立てられぬならば昼に会えばよかっただろうに。なあ?左近」
一人、三成だけは意味が分かっていなかったようだが、忠実な家臣であるところの左近は、「今は政宗さんの不義を挙げる場ではなく、格好悪いところを直そうという場なんじゃないですか」と言ったきり、後は聞こえぬ振りに徹した。
が、これに関しては政宗だって言い分はあるのだ。
「儂は何度もお主のところに忍んで行こうとしたぞ!じゃが貴様の親父がな!大量の罠を張って忍を放って、手ぐすね引いて待っておったからお主のところまで辿り着けんでな!」
その痛々しい言い訳に納得できなかったのか、つーんと顔を背ける幸村に政宗は膝をついた。
追い討ちをかけるように兼続が「口ばっかり、即ち不義である!」とホワイトボードにでかでかと記入する。なかなか酷いことになってきた、そんな中、
「はい!」
再び幸村が高々と手を上げた。楽しくて仕様がないというその表情に、政宗は当然の如く泣きそうだ。
「あと、政宗殿は、へたれです!」
「へたれか!これは面白い!して幸村はいつそれを感じたのかな?」
「ちょ、もう止めてあげてくださいよ」
「ん?山犬の味方をするのであれば、代わりに左近の駄目なところを弄り倒して遊ぶことにするが?」
やはり兼続は完全に遊び気分だった。が、そんなことはどうでもいい。
兼続の言葉に、左近は黙り込んだ。誰だって我が身は可愛いし。
「はじめて政宗殿が」
が、幸村の語りに、左近は慌てて三成の耳を塞ぐ。
へたれ、はじめて、と来れば、これはもうあの手の話題しか考えられない。左近の予感は的中した。
「何度も何度も痛くはないか、苦しくはないか、と聞かれるものですから、私は正直、面倒臭くて大変でした!」
「……………」
可哀想に、遂に政宗は顔を覆ってしまう。左近は男として深く深く政宗に同情した。(が、三成の耳を塞ぐことに一生懸命だったので、特に慰めの言葉などはかけなかった)
「山犬は下手だった、ということかな?これは興味深い!」
「いえ、下手ではありませぬ。しかし、ここまでやっておいて今更何を躊躇しているのかと思いました故」
下手ではないという幸村の発言に、少しだけ政宗は顔を輝かせたが、続きを聞くと黙って部屋の片隅で体育座りをはじめてしまった。兼続が「へたれ、故に不義の極み!」と、でかでかと板書する。
三成の耳を解放した左近は(勿論三成はすこぶる不機嫌で、何度か左近は鉄扇で叩かれねばならなかった)慌てて幸村に尋ねた。何というか、もう見ていられない。
「で、でも幸村だって政宗さんの好きなところはあるんじゃないんですかい?それが政宗さんの数少ない格好良いところで、それに重点を置いて伸ばしていけば、政宗さんもぐんと格好良くなられるんじゃないですかね?」
数少ない格好良いところ、とは、また左近も酷いことを言うが、相対的に見るのであれば兼続や幸村ほどではないその言葉に、政宗は顔を上げる。
「そうじゃ!よう言うた、左近!」
「そうだな、私としたことが、表向きの目的を忘れてしまうところであった!礼を言うぞ、左近!」
「で、幸村は、政宗の何処が好きなのだ?」
横柄さでは日ノ本一を誇る三成が、端的に過ぎる質問を浴びせた。が、幸村も然して気にせず、必死の祈りが込められた政宗の隻眼に凝視されながらも、うーんと首を捻る。
「…幸村…そんなに考えんと儂の好きなところが出てこんのか…」
「あ!」
幸村がこれだ!とばかりに顔を上げた。
政宗(と、直接関係ないが責任を感じている左近)が固唾を呑んで幸村の言葉を待つ。
「顔です」
「は?」
「顔とかが、好きです」
ある意味、最悪の答えである。ついに政宗は畳の上に突っ伏した。もしかしたら泣いているのかもしれない。
「顔の作りということであれば、私の方が断然勝っている気がするぞ!眉目秀麗な私!立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は愛染明王!正に私に相応しい言葉だ!」
「とか、ってどういうことだ、幸村」
三成の揚げ足取りも絶好調だ。だが、幸村が答える間もなく、兼続が畳み掛ける。
「顔と体、ということか!全く山犬の格好良いところなど、せいぜいそんなところだ!」
「ちょ、いいから待ってくださいよ!幸村、あんたももう少し考えて答えたらどうですかい」
「ちゃんと考えましたよ?」
「そうだぞ、左近。幸村自身がそこがいいと言っているのだから、幸村にとって政宗の格好良いところはそこなのだろう。それは俺達がどうこう言うところではない」
三成の理屈は筋が通っているが、ここだけ筋を通しても意味がない。
「そうだ!幸村は殿と仲が良いじゃないですか。うちの殿の格好良いところは何処だと思います?」
「三成殿ですか?」
左近が無理矢理話題を変えた。
主を引き合いに出すのは如何かと少々思うが、どうか幸村が、もふもふした意味分からん兜とか、鉄扇で戦おうとする無謀なところとか、そういう(政宗にとって)救いのあることを言ってくれますように、左近は願う。
一人ぼっちでこき下ろされるより、皆でまとめてこき下ろされる方が傷は浅いに違いない。
が、人の願いなど古来より儚いことこの上ないものなのだ。
「三成殿は…純粋な方です」
「馬鹿な。俺が純粋だと?」
「ええ、見ていればすぐに分かります。それに決して曲げない強い意思をお持ちです。その意思を、現実のものにしようと日夜努力なさっている。私如きが言うのもおこがましいですが、三成殿は素晴らしい方だと思います」
「幸村…」
感無量気味に幸村の言葉を聞く三成にとっては最高の賛辞だろうが、何とか政宗の肩を持とうとした左近にも、政宗にとっても幸村の解答は最悪だった。
「じゃ、じゃあ、兼続さんはどうだい?」
左近の必死の質問に、さすがの幸村も黙り込む。
「私の格好良いところか!あり過ぎてすぐには絞りきれぬだろう、ゆっくり考えるといいぞ、幸村!」
兼続は自信満々でそんなことを叫んでいるが。
「………兼続殿は、いつも元気でいらっしゃいます」
「…全くもって正しい答えじゃな」
「ああ、あいつはいつでも、元気に過ぎる」
少しだけ、微妙な空気が流れた。答えを口にした幸村本人も、色々思うところがあるのだろう。
が、それで怯む兼続ではない。
「ふむ、私の持つ数多くの美点からそこを選び取るとは、さすが幸村だな!心身ともに元気でなければ義は行えぬ!元気がなければ幾ら私とて無尽蔵な愛は溢れてこぬであろう!」
「…そういう意味ではないと思うがな」
「しっ!殿、黙って!」
「元気がない時も気概を持ってすれば、義と愛溢れる己を貫くことは出来よう!だがそれで息切れでもしたら何とする!私ですら気付かなかった私の長所、即ち、元気さ!義愛同様これも貫く為、よし!今から皆で鍛錬だ!明日の元気は今日の鍛錬から!何を愚図愚図している、三成!そなたの意思と私の元気で、義の世を作るのだ!滾るぞ!!!この刃!!!」
「あっ!馬鹿!こいつまた無双を!」
「しかも皆伝ですよ!政宗殿、危ない!」
今日の兼続は、時間も体力も(ついでに無双ゲージも)有り余っているらしい。
刀を高々と上げて何の意味もない無双を放った後、やっと満足したのであろうか、今度こそ咄嗟に防御が出来ず無双の巻き添えを食らった三成と左近を引き摺って帰って行った。
鍛錬がどうの、と言っていたから、きっとそれをするつもりなのだろう。
幸いなことに兼続の腕は二本しかなかったので(とっ捕まった三成と左近にとっては幸いでも何でもないが)、間一髪で無双の範囲から逃れた幸村と、衝撃で吹き飛ばされた政宗は、兼続の義手というか魔手というか、まあ、そういうものに捕まらずに済んだ。
転がったまま兼続の後姿を見送った政宗が、呆然と呟く。
「何だったんじゃ…」
「ですから、兼続殿は暇潰しに来られたのだと」
「何が暇潰しじゃ!あることないこと言うて、この儂を愚弄しおって!」
「あることないことじゃ、ないですよ?」
確かに幸村の意見は、いちいち身に覚えのあることだらけではあったが。
ぐ、と言葉に詰まった政宗を見上げて、幸村はにっこり笑う。
「儂は、お主にも怒っておるのじゃぞ」
「はいはい、分かっております」
怒るっていっても口だけですから。
幸村は心の中でこっそり呟いて、揃えた膝をぽんぽん、叩く。
さっきの続き、膝枕しないんですか?とばかりに見上げれば、へたれな政宗は、これ以上何も言えないのを幸村はちゃんと知っているので。
政宗は、それでも拗ねたように視線を彷徨わせていたが、少し寂しそうな表情を作る幸村を見ると、うろたえる。
もう一度、焦れたように自分の膝を軽く叩くと、政宗がそれを枕にごろりと横になった。まだ拗ねていることは拗ねているのだろう。政宗はそっぽを向いたままだから、幸村からは顔が見えない。
「政宗殿?」
含み笑いを隠さずに呼びかけると、何じゃ、と押し殺したような声がする。
揺れる髪の毛を撫でたら、政宗が寝返りをうった。やっと見せてくれた顔の輪郭を幸村は指先でそっと辿る。
「顔が好きって言ったじゃないですか」
「儂の価値は顔だけか。つか、お主は儂の身体目当てか」
「ええ」
思わず顔を顰めた政宗に、意外な答えが振ってきた。
「だって、こんなに手触りの良い髪も身体も顔も知りませぬ。撫でるとこんなに気持ち良い」
手触りだけか、と言い掛けた政宗が、今度こそ絶句した。
「まるで私の為だけのものみたいで、大好きです」
「……それならそうと、初めからそう言え」
「だから言ったじゃないですか。顔とかが、好きって」
「あれでは誤解を招くわ!あとな、ああいうことを話すな!」
政宗の口調は怒っているが、何処かに「一応言うておかねばな」的な諦めが感じられるから、幸村もちっとも怯まない。
「ああいうこと?」
「儂が忍んでいかなかったとか、痛くないかって聞いたとかな。人に話すことじゃないじゃろうが!」
「だって政宗殿、前、成実殿に私のこと話してたでしょう?」
それに関して政宗は反論できない。
確かに、話した。勿論幸村の名誉に関わるような具体的なことは言わなかったが(だって勿体無いし)、どれだけ可愛くて健気で愛おしいかを、兼続ばりに演説した。(しかもそれは一度や二度じゃないし、被害者は成実だけではない)
「私だって、誰かに話したいですよ」
「……………」
「誰にでも、ぺらぺら話す訳ではないですから」
ね?と首を傾げてごり押しする。
じゃがな、余り具体的過ぎる内容はな、ともごもご言っていた政宗だったが、やがて黙って頷いた。寝転がったままの政宗の首筋を撫でると、政宗がくすぐったそうに身を起こして抱きついてくる。政宗の肩越しに、兼続が好き勝手書いた挙句置いていったホワイトボードが見える。
すぐ、折れるとこ。弁は立つのに。
幸村は政宗の格好悪いとこリストに、心の中でこっそり付け加えた。
口ばかりのうろたえもので、へたれで、自分が悪くないのにすぐ折れる。散々な評価だと思うが、直してやる気にはなれない。
「でも、だってこれ、全部、私限定ですから」
「何がじゃ」
幸村が黙ってボードを指差すと、政宗が苦笑したまま頬擦りした。
こんな愛おしい生き物に向かって、三成の時のような冷静な解答も、兼続の時のような適当な解答も出来るわけない。
「儂は、本当にお主に弱い」
「もういっこ、政宗殿の格好悪いところですね」
「そうじゃな」
大好きな髪の毛が首筋をくすぐって、大好きな息が耳朶にかかる。大好きな肌が頬に触れて、大好きな指で髪を梳いてくれるから、思わず、そういうところが大好きと声に出しそうになって、幸村は慌てて口を噤まなくてはいけなくなった。
ウチの政宗は格好悪い格好悪いといわれる上(別に苦情が来た訳ではないですがwww)、
私自身も格好良いと思っている筈なのに何がいかんのか、と思っていたので
疑問を解決すべく兼続に頑張ってもらいました。
が、兼続と幸村が頑張りすぎて、疑問が解消できなかった上に、さすがに政宗が可哀想になったので、
必死でらぶらぶ度を上げました。ああ、ひっしだよ!!!
(10/04/23)