※ギャグのつもりですが下品ですよ!お若いお嬢さんは回れ右。
大きなお嬢さんでも、下品な話がお嫌いな方は、回避願います。

 

 

 

咽喉を鳴らした儂を見て、幸村は物凄く嫌そうな顔をした。
嫌そうな顔というのは、案外どんな場面にでも応用が利くもので、自分の興奮がもう少し高まっていたら、それを儂は官能の表情と読み、もう少し冷静だったら、幸村が媚びてみせたのだと勘違いしたことだろう。だが、幸村の手によって予め一度欲を吐き出させられていた儂の自慢の息子には、まだまだ余裕があったし、かと言って、儂の髪の毛を鷲掴みにして、ついでに脱ぎ捨てた服を口に当てる幸村を見せられて冷静でいられるほど、儂はまだ枯れてはおらぬ。
よって儂は、幸村の嫌そうな顔を実に正確に、そのままに、受け止めることが出来たという訳だ。
 
無論、耳に入ってきた「うわ」という小さな呻き声も、その捉え方が正しいのだと背中を押したのだが。
 
「うわ…不味そう…」
 
不味そうなのではない、不味いのじゃ。
大体、グルタミン酸もイノシン酸も入っていない(と思うが、よくは知らぬ)唯の蛋白質が美味いなんてことあるか。
 
と言ってしまうのは憚られたので、儂はそれに対するコメントは差し控えた。
お主のじゃからな。
代わりに、そう返す。
愛する人のものだから、見ても触れても舐めても呑んでも平気、という考えには多少の疑問があったが、それは古来より何百何千の恋人達が交わしてきた会話であろうし、今でも絶滅していないということは、それなりの意味があるのだろう。
それを上手く使ったものを手練手管と呼ぶのだと何となく思ったので、そう言ったまでだ。
 
「呑み込んだ口でキスされるのは嫌です」
 
それを知ってか知らずか、幸村がそんなことを言ったので、それもそうだな、逆だったら儂だって嫌じゃ、と心の中で同意しながら、儂は思う様幸村の口の中を舌で蹂躙してやった。当然、その後の嫌そうな顔は、さっきと比べ物にならないくらい酷いものだったが。
 
 
 
まさか自分でも美味いと思えぬものを呑み込んで、心底賞賛する人間などいまい。
しかしイメージや先入観の力たるや偉大なもので、精液を呑みながら「美味しいわ」とほざく女(男でも構わぬ)など、僅か一時間弱の映像の中にしか実在せぬファンタジーだと分かってはいたつもりだったが、儂はそこに何らかの夢を見ていたらしい。
 
儂も儂も、と頼み込んだ後に、幸村が諦めたような溜息を吐く姿を見て、儂はこっそり狂喜乱舞したほどだ。
若気の至り、という奴だろう。幸村が儂の精液を呑み下し、にっこり笑う卑猥な様まで想像した。
勿論、心の底から幸村が嫌がっていたらそんなことはさせないが、実にあっさりと儂のを手に取った幸村は(これはこれで充分そそられるが、その余りに躊躇せぬ態度に、もう少し慣れぬうちに頼むのだったと儂は後悔した)口を近付けながら、大層可笑しそうに笑った。
 
「咥えられるのを待ってる政宗殿って、間抜けに見えますね」
 
なんて奴だ。
間抜けなのも情けないのも百も承知で舐めてくれと頼み込んだ儂に、この仕打ち。
 
たしかにそれは間抜けに過ぎる姿かもしれぬが、それを言ったらおしまいじゃ。
そんなことを言うたら、必死で組み敷いている姿も、貴様に覆いかぶさって腰を動かしている姿も、全部間抜けで済まされてしまうではないか。そもそもさっきまで同じことをされながらあんあん言うておったのは、何処の誰じゃ。むしろ息を吹きかけながらそんなことを言うな。
 
そんな風にがっかりしている儂をちっとも顧みず、しかも幸村は何の衒いもなく、あっさりと舌を這わせ始める。
それで一先ず、先ほどの無礼な発言を忘れられる儂は、何て単純なんだと思う。端的に言えば、顔を埋めて頭を動かす幸村に、感動すら覚えていたということじゃ。
 
「口が疲れました。もう顎が痛いです」
 
なのに幸村ときたら、途中で身体を起こし、そんな無情なことを言い出す。
恥ずかしながら、儂は殆ど泣きそうだった。
口が疲れた、その気分は儂とて分かる。が、顎の痛みと引き換えてもやりたいから儂はやっておるというに。
 
すぐさま口が疲れるようなサイズではないじゃろうが、と言いたかったが、プライドが邪魔したので、そうは言えなかった。
 
「まだほんの少ししかやっとらんじゃろうが!」
「あー、顎痛い」
「我慢して頑張ってくれ!頼むから!」
「でも本当に口が疲れたんですよ」
 
そうじゃ、こ奴はこういう男だった。
いつだったか思い付きで儂が腕を縛り上げた時には、自力で抜け出せるであろうに、解いてください、なんてわざと蚊の鳴くような声で懇願する癖に。
突然後ろから羽交い絞めにして強姦紛いの――言うまでもなくプレイの一環じゃ――ことをした時には、嘘泣きをしながら、もう止めてくださいとか何とか、結構乗っていた癖に。
 
そういうことを総合して、決して淡白なのではないと思うが、普段から儂のことを気分屋だと非難する割に、幸村はもっと気分屋だ。
今日は気分が乗りませんと、あっさり断られたことだってある。
 
もう後は挿れるだけだったんじゃぞ?収まらない儂が手を合わせて、今日はマグロで構わぬからやらせてくれ、と頼んだら、濡れた息と短い言葉を連発する他は、いっそ面白くなるくらいにちっとも動かなかった。それはそれで好き勝手凌辱している感じがして、実は儂は結構頑張ってしまったのじゃが、終わった時に「政宗殿はいつも元気ですなあ」と言われてやっぱり泣きそうになった。
 
ああ、そうじゃ。上半身どころか、下半身も元気なのが儂の取り得じゃ!つか、下校途中に群がっているどうでもいい餓鬼共を見るような感想を、ティッシュで拭いながら述べるな!
 
羞恥をひた隠して反論した言葉は如何にもな喧嘩腰だったが、幸村はそれをさらりとかわして「政宗殿可愛い」と笑っただけだった。
 
………言うまでもなく、喧嘩は回避された。
馬鹿にされているであろうに、幸村の僅かに上気した、しかもいい気になった笑顔だけで満足してしまった儂に、勝ち目はない。
 
というか、そんな風に振り回されっぱなしの自分が、何よりも情けなくて、実は結構、嫌いではない。
 
 
 
ともあれ、顎が疲れたと主張しながら、口を大きく開けたり窄めたりしている幸村は、結構可愛かった。
仕様がないのう。
呟いたら幸村は、やった、とばかりに儂に腕を回し引き倒す。ああ、またいい気にさせてしもうた。儂の負けだ。
むしろ、ここ最近こ奴に勝った記憶がまるでない。
 
 
 
顎も鍛えられるものなのかどうなのか、それについてはさっぱり知らぬが、少なくとも幸村の顎は、多少鍛えられたらしい。
あれ以来時間が徐々に、長くなった。何の時間についてかは言わずとも分かるであろう。
 
儂のものだろうが幸村のものだろうが、精液の味なぞそう変わらぬだろうから、あんなに不味いものを呑ませるなんて可哀想と思う殊勝な奴がこの世に存在しているのかどうかも知らぬが、儂にすれば呑んでくれたら最高、などと思う。呑ませることに一体何の意味があるのか自分でもさっぱり分からぬのだから、それはもう哀しき男の性、という奴だろう。
余計なことを考えていては出るものも出ぬので、詮無き考えを振り払い集中しようとした瞬間、幸村が根元をむんずと掴み、口を離して此方を見た。上目遣いで此方を睨みつつ、口元には笑みを湛えて。
畜生、そんな顔もそれはそれでいい眺めなのじゃ。
 
「出すつもりでしょう?」
「いや、まあ、そのな?そろそろかなと思うてはおったが」
「そろそろどころじゃないですよね?」
 
こういう時、微妙な痙攣だけで色々なことが分かってしまう同性同士は厄介だ。
あわよくば口の中に出してやると、本当は思っていたし、あとほんの数回、いや一度でも吸い上げられたら儂の本懐は遂げられていたであろうに。
もごもごと言い訳を続ける儂を一瞥すると、幸村は再び顔を埋める。仕様がないですなあ、なんて言いやがる。正確には「ほうははいでふふあ」だったが。
 
僅か一時間弱のファンタジーに彩られた画面の中の女共は(だから男でも良いが、儂は男しか出て来ぬそれは見たことがない)あんなにも恍惚の表情を浮かべているというのに(口の中には性感帯など碌にないのだから、あれもおかしな話ではあるが)幸村は鼻歌でも口ずさみそうな楽しげな表情を一切歪めず、形を確かめるように指先で撫でると、一気に吸い上げる。
その顔は何かに似ていて、ああそうだ、焼き肉に行った時、肉汁の滴るカルビを箸で摘み上げて、そんな顔をしていた。
貴様の性欲は食欲と一緒くたなのか。そんなことより、今度一緒に焼き肉を食いに行ったら、儂、我慢できるじゃろうか。
 
「ちゃんと集中してくださいよ。顎が疲れてきたので」
 
ここで止められては敵わぬから、儂は頭の中に展開するじゅうじゅうと音を立てそうな肉の映像を必死で追い払う。が、美味いものを前にした幸村の表情は、なかなか儂の頭から消えていかない。
あんなに美味いものと、咽喉が必死に押し返そうとするほど不味いもの。
食欲と一緒くたにされた幸村の性欲は、案外間違っていないのではないか、なんて思う。
 
 
 
「うげー」
儂の足の間に蹲った幸村は、変な形に歪ませた口からそんな声を漏らした。
さっきまで呑み込むのを躊躇して口の中に暫く溜めていた所為だろう、目には涙まで浮かべている。馬鹿な奴だ。さっさと吐き出すなり呑み込むなり、決めてしまえば苦しくないのだろうに。儂は実際そう言ってやったのだが。
 
「まだ口の中にあるのか?お主、馬鹿か?」
「うううう」
「いいから出せ。今更もう呑めぬじゃろう?」
 
幸村は当たり前だが返事が出来ない。
一度此方を見上げ、何だか妙な決意を浮かべると、両手を握りしめ、ついでに眉間に皺を寄せるほど目を固く閉じて、呑み込んだ。
 
「ばっ、馬鹿!無理して呑むな!」
 
あんな不味いものを呑ませるなんて可哀想なんて殊勝なことを思った訳ではないが、きついだろう、とは思う。
案の定、幸村は酷く咽た。
大体、そろそろだろうということは分かっていた筈なのだ。隙を見て唾液を貯めて、口の中に流れ込んでくる勢いを殺さずに口内の大量の唾液と共に流し込めば、ここまで嫌な味は残らないだろうに。
 
「……そういうやり方は、先に言ってください」
 
まだけほけほとせきこみながら、幸村が恨めしげに睨む。足の間に蹲る幸村の背を撫でてやるのは容易いから、とんとんと軽く背を叩いてやる。
幸村の背中は少しだけひんやりとしていて、気持ち良かった。
儂に凭れかかりながら、幸村は顔を歪ませてこんな声を出す。
 
「うげー」
 
小さな子供が花壇の中に毛虫を見つけてそれを棒で弄りながら出す奇声のような、楽しげな呻き声だった。
 
「うげーとは何じゃ。だから出せと言うたのじゃ」
「何処に出したらいいか、分からなかったので」
「ティッシュとかに出せば良いじゃろうが」
「ああ、そうか」
 
政宗殿のだから呑みたかったんです、という言葉を期待していた儂は、まだまだ甘い。
そんなこと本心から思う人間など居らぬだろうけど(多少は思うかもしれないが、百パーセントそう思っている人間など居るのか?)、そう口にすることこそが、古来より数多の恋人共が使ってきた手練手管というものじゃないか、と思う。思うのだが。
 
「でも、まあ、頑張ったな」
 
精液を呑んで頑張ったも糞もないのだが、そう言ったら幸村は甚く嬉しそうな顔をする。
その顔は可愛かったが、しまった、と儂は少しだけ後悔する。幸村に久しぶりに勝った気分でいたのに、またも儂は迂闊に褒めて、こ奴をいい気にさせてしまった。無邪気な笑みを湛えたまま、幸村は儂の両頬をがっちり掌で固定する。
今度こそ、本気で思う。しまった。
 
「まだ口の中に味が残っております」
「馬鹿!止めろ!口をつけるな!」
「舌を入れるだけですよ」
「止めぬか!殴るぞ!」
「大丈夫、政宗殿は絶対私を殴れませぬから」
 
悔しいが、確かにそれは本当だ。
常に儂にだけは容赦のない幸村はがっちりと此方の顔を押さえこんでいるのに、儂ときたら、殴るどころか全力で振り払うことも出来ない。
 
「何だか楽しいので、偶には呑んであげても良いです」
 
幸村はいつだって、正直過ぎるだけなんじゃないかと思った。
気分が乗らない、口が疲れた、偶には呑んでやっても良い。
上手く呑み込めなくてえずいてすらいた癖に、こ奴は結構凄いのではないかと思う。一切嘘は吐かずに、常に自分がいい気になれるように儂を誘導し、しかも儂にそんなのも悪くないと思わせる。
いつの間にそんなに上手くなったのじゃ。
貴方のだから平気なの、と通り一遍の嘘を並べられるより、一欠片の嘘も吐かず儂を自分をもいい気にさせる。それを至上の手練手管というのではないのか。
 
にんまりと笑った幸村が唇を押しあててきたので、儂は腹を括って薄く口を開けた。いつの間にかキスまで上手になったんじゃな、と思ったが、それを言うと幸村はまたいい気になるだろうから、止めた。
けど、儂は結局言ってしまうのだろう。
そんなことも知らなかったんですか、とでも言うように、幸村は得意気に笑って横になるのだろう。
儂は幸村の希望通りに、丁寧に、けど間抜けに、動くことになるのだろう。
 
 
 
そんな風に振り回されっぱなしの自分が、何よりも情けなくて、実は儂はそんな自分が、結構好きだ、と思う。

 

 

原稿に疲れてかっとなって書いたもの、そのに。
実はこれ、格好悪い伊達に載せようとして我に返った。我に返って本当に良かった。

せーえきせーえき言うててすみません。が、伊達にざーめんとか言わせたくなかった(そういう問題じゃない)
下品なネタを書くのは楽しいのですが、多分需要はないと思われ。ごめんなさい。
(10/06/25)