「此処は…何処だろうか?!そして私は誰かな?!先程まで確かに義と愛に包まれていたような気がするのだが…覚えているのはそれだけだ!」
 
眼前に引き摺り出された兼続の第一声がこれだったから、政宗と幸村の必死の訴えを三成は、やっぱり一瞬疑ったのだ。
 
どういうことだ?いつもと変わらぬ鬱陶しさではないかと三成は後ろに座っていた政宗を振り返る。自然、視線は兼続から外れ
「兼続殿!それ、飲み物じゃないですから!」
幸村の悲鳴にも似た叫び声に再び正面を向いた三成は、今度こそ唖然とした。
三成の机の上に置いてあった硯を手にした兼続は、とてもじゃないが到底飲み物とは思えぬ中身(つまり、墨だ)を口に含み、盛大に吐き出していたところだったから。
 
 
 
三成は幸村の保護者でも何でもないのだから、別段報告の義務などないのだが、幸村は何故か三成に自分の予定をべらべら喋る。
今日は政宗殿と城下に遊びにいくのです、明日政宗殿の屋敷に伺うのです。
微笑ましくも、わざわざ俺に話すことはないのだぞと首を傾げていたが、左近から言われて気がついた。
 
「何もかも話してるって訳じゃないでしょう、殿。聞いて欲しいんですよ、政宗さんとの話を」
 
成程左近にしてはなかなか鋭いことを言うものだと三成は納得した。
 
だから幸村が「今から二人で海を見に行くのです」と嬉しそうに話した時も、色々――何だかんだで上手くやっているのだなあ、だとか、まだ暑いどころか炎天下の海に行って何が楽しいのだ、しかも泳ぐには時期外れでクラゲだらけなのだぞ、とか――思ったのだが、一応笑顔で幸村を見送ったのだ。
 
「お土産、買ってきますね」
 
まさか土産がそんな大変なものになるとはちっとも思わなかった。
今頃幸村は波打ち際で砂を蹴って走りながら政宗とうふふあははと追いかけっこか(殿、そのイメージは古過ぎますよと左近が言ったのだけど、三成は当然のように無視した)。糞、俺は政務に追われているというのにな。まあ、海に行っても脱水症状で腹を下すか日焼けで熱を出すかであるから羨ましくも何ともないが。
 
 
 
「三成殿!三成殿、大変です!」
 
海でうふふあははと宜しくやっている筈の幸村の声が石田屋敷に響いたのは、三成がそんな止め処ない妄想をぼんやりしていた矢先だった。
 
早過ぎる幸村の帰還に握っていた筆を放り投げて玄関に走る三成。政宗が波に呑まれたか、それならまだしも(波に攫われたくらいであの政宗が死ぬわけはないのだし)出先で喧嘩でもしたのか。
駆け寄った三成が己の屋敷の玄関先で目にしたものは、困り果てた幸村の情けない顔と、馬の背から何か小汚いモノを必死に下ろしている政宗の姿。政宗が手にしている物体を見た三成は、劈くような悲鳴を上げた。
 
「ぎゃああ!何だそれは!昆布の固まりではないか!そんな汚いものを俺の屋敷に入れるな!俺はぬるぬるした海草が嫌いなのだよ!」
「違うんじゃ!昆布が絡まっておるが、よう見よ!兼続じゃ、兼続!」
「そうなんです!私も驚きましたが、これはどうやら兼続殿らしいのです!」
 
馬から投げ出された昆布の塊を指差し「これ」扱いする幸村の無礼さを、どうこう言っている場合ではなかった。
どさりと投げ出された昆布の塊がうごうご動き(勿論三成は再び息を呑みながら、今夜は昆布に襲われる夢を見そうだと心底嘆いた)見覚えのある恥ずかしい兜と無駄に端正な顔が、昆布の隙間からひょっこり、現れた。
 
「…本当に兼続だったのか」
「だから言うたじゃろうが」
「で、貴様は昆布まみれで何を遊んでいたのだ!イカ――いや今はカニか?兎に角そういった異名を持つ貴様のことだ、季節外れの海水浴を楽しむのは結構だが、遊ぶならどこか余所で遊べ!」
「違うのです、三成殿!兼続殿はどうやら遊んでいたようではなくて、あの、波打ち際に打ち上げられていて…」
「それの何処が遊んでいないと言えるのだ、幸村!」
「しかも少しばかり記憶が面倒なことになっておってな…」
「兼続と関わる時点で少しどころではない、凄まじく面倒だろう、政宗!」
 
いいから、帰れ。ついでに貴様が逢瀬の邪魔をした二人にも謝っておけと三成が踵を返しかけたその瞬間、まだ昆布を纏わり付かせながら兼続がようやっと口を開いた。
 
「此処は…何処だろうか?!そして私は誰かな?!」
 
こんなにも見事に状況を表してくれる台詞など、他にあるだろうか。
記憶喪失――その単語をまざまざと頭の中に思い浮かべながら三成は言葉を失った。
 
 
 
 
 
いやいや、あり得ない話ではないだろうが、普通こういう状況というのは、幸村か政宗がなるのが定石だろう、と三成は頭を抱える。
が、いくら普段通りに「義」と叫ぼうが「愛」と喚こうが、兼続が自分の名も分からず、ついでに墨の存在も忘れ口にしてしまったのは事実である。床の墨溜りを見ながら、三成は盛大に溜息を吐いた。
 
何故よりにもよって兼続が。幸村とかじゃなくてか。
俺達のことも幸村自身のことも覚えているのに政宗のことだけさっぱり忘れてしまう、とか、そういう話ではないのか。あんなに愛し合った二人なのにと、もどかしい、そして切ない気持ちを抱えながら記憶を失った幸村を甲斐甲斐しく世話する政宗に、いつしか幸村も仄かな恋心を抱き、そして――それが王道だろう?!俺は理に沿わぬことは嫌いなのだよ!
 
「ところで私は一体何者かな?!」
「ええと、ですから、直江兼続殿です…」
「なお…?ぐわああああ!頭が!頭が割れるように痛い!どうしたことだ!」
 
物思い(この場合、実にいらん物思いではあったが)にふける三成の脳内にもぎゅんぎゅん食い込む兼続の絶叫。
 
「ええい、何度名前を言わせる気だ!」
 
鉄扇を握り締め三成がそう叫ぶのも無理はない。兼続と幸村は、先程から半刻近くこの遣り取りを繰り返している。
幸村が兼続の名を伝える度に、頭が痛いだの割れるだの大騒ぎ、政務室を提供している三成はいい迷惑だ。そんなに頭が割れそうなら、いっそその兜の先同様に割れてしまえ。
兼続の身体には昆布がまだ張り付いたままで、正直、三成にはそれもまた気持ち悪い。
 
「俺がしこたま殴って思い出させてやる!止めるな、政宗!」
「いや、やりたければ止めんがな。それはもう、こ奴を発見した時に儂と幸村二人がかりで散々やったのじゃ」
 
根気よく兼続に付き合っている幸村とは対照的に、政宗は至極ぐったりしている。海で折角幸村とあははうふふとはしゃぐつもりだったのに、うっかり打ち上げられた昆布の塊を見つけてしまい近寄ったらそれが兼続だったのだ。無理もない。
 
昆布の塊から覗いた見覚えがありすぎる面に「何じゃ貴様!また儂らの邪魔か!」と銃を構えてみたものの、どうも反応がおかしい。遂に気でも違ったかと顔を覗き込んで、要領を得ない何度目かの遣り取りの後、やっと兼続の置かれた状況が分かったのだ。
すわ一大事と記憶をなくした兼続を抱え、とりあえず誰か(主に三成)に押し付ける為、馬に乗せようとしたら、泣き喚いて大暴れをしだす始末。
 
「うわああああ!何だ、この生き物は!恐ろしい!首の後ろに何かもふもふしたものが生えているぞ!」
「…たてがみじゃが…」
「政宗殿!兼続殿はもしかしたら馬のことも忘れてしまったのではないでしょうか?」
「馬のことをか?!」
 
おかしいじゃろう、それは。二次元の記憶喪失というのは、もっと都合よく一部の記憶を亡くすもので、何もかも忘れてしまうことではない筈じゃろう?それはただの痴呆じゃ!
 
だが政宗のそんな思惑など無視して兼続は馬につけられた鞍に目を留めた。
何かな、これは!食べ物か?!そう叫ぶと躊躇なく鞍にがぶりと噛み付く。
 
「ぬう、硬いな!硬くてとても噛み切れぬ!」
 
怒号のような話し声に吃驚したのであろう、政宗の馬が急に身を翻して兼続を蹴った。慌てて馬を押さえ込もうとした幸村がふと、手を止める。
 
「…一応聞くが…なんで止めんのじゃ」
「…いえ、頭に衝撃を与えれば何とかなるかと思いまして」
「奇遇じゃな、儂も全く同じことを思っておった」
 
頭を打てば記憶喪失が治る、というのは全くの俗説なのだが、唯でさえ面倒臭い兼続が、更に面倒臭い状況に陥ったのだ。荒療治でも戻ってくれればそれでいい、という気持ちが二人にはある。
馬に蹴られ噛まれる度に悲鳴を上げ「これは地獄の使いか?!それとも不義を宿した忌まわしい生き物か?!」と叫んでいた兼続の記憶は、暴れ疲れた馬が大人しくなっても直らなかった。兼続の体力は、そういう意味では底なしだ。
 
「不義とか、そういう言葉は覚えてるんですね」
「不義か!不義は倒さねばならぬ!義と愛に満ちたこの私…私…私は誰だ!ぐわああああ!頭が割れるようだ!」
「厄介なことだけは覚えておるのう…」
 
頭を抱えながら尚も馬にびくつく兼続を殴りつけ、それでも事態は一向に良くならない。やがて政宗が諦め、幸村が槍を取り出し「駄目じゃ、幸村!槍で突いたらいくら兼続でも死ぬぞ!」幸村を止めつつ兼続の腹を殴って気絶させ、二人がかりで何とか馬の上に固定すると政宗と幸村は一路、三成の許に急いだのだ。
そりゃ政宗が疲れるのも道理である。
 
 
 
「事情は分かった。だが何故昆布まみれで運んできた。おかげで俺の部屋が磯臭いではないか!」
 
どうしたもんだかと正直途方に暮れつつ、顔を顰めながら兼続の纏う昆布に手をかけた三成の動きが、やはり兼続の悲鳴によってぴたりと止まる。
 
「そなた、一体どういうつもりだ!この私を裸に…はっ!この私の麗しさに理性をなくし、手篭めにするつもりか!」
「…ほらな。儂も幸村も、せめて昆布を取って身体を拭いてやろうとしたんじゃて」
「おお!いやらしい!何という不義の行いか!しかし身体は明け渡そうとも私の心までは自由に出来ぬと知れい!」
「兼続、悪いがその海草は貴様の服ではないし、俺はそんなに悪趣味ではないのだよ!」
「ふく…ふくとは何だ!何か思い出しそ…ぐっ、頭が痛い!」
「服というのは、ええと、着るもので、布で出来ておりまして」
「ぬの?ぬのとは何かな?!何か…思い出せそうだ!割れる!私の義に溢れた頭が割れそうだ!!!」
「幸村!服の説明などどうでもいい!兼続を押さえておけ!」
 
全く要領を得ない幸村の説明と、馬も墨も服もついでに布も忘れのた打ち回る兼続に、ついに三成が切れた(遅かったくらいだ)。
幸村と政宗に兼続を押さえつけさせ、苦手なはずの昆布をすごい勢いで次々に剥ぎ取ったのだから、三成の苛々は沸点を軽く超えていたのだろう。昆布を庭先に放り投げ兜に手をかけた矢先、幸村に口を塞がれていた兼続がその手を振り払い凄まじい抵抗を見せた。
 
「何をする気だ!私の頭を毟り取るつもりだな!そうはさせん!」
「いや、頭なんて毟り取れるものでもないじゃろう!出来るというならとっくにしておるわ!」
「俺が取っているのは貴様の頭ではない、兜だ!」
 
噛み付くような二人の勢いに怯んだ隙に、幸村が大丈夫ですよとごり押しすると、やっと、少しだけ兼続が大人しくなった。
 
「これは兼続殿の頭ではなく、兜です…ええと、頭に被るものです。兼続殿の頭はちゃんと付いてますよ」
「おお!私の頭!これが私の頭か!」
 
兼続がやっと頭を覚えた!頭、頭と連呼しながら己の頭頂部を撫で回す。
中身は兎も角、やっと人らしい出で立ちになったと三成が胸を撫で下ろしたその時、襖が開いて左近が顔を出した。
 
「殿、さっきから何なさってるんですか?五月蝿いですよ」
「五月蝿いのは俺ではない。兼続だ」
「そんなことは百も承知ですけどね…って、兼続さんどうしたんですかい?」
 
さすがに軍略家を気取る左近である。
左近が先ほど開いた襖を「これは何かな?動くぞ!不義かな?義かな?」と興味津々で触る兼続に疑問を抱いたらしい(まあ、誰でも兼続の異常にはすぐに気付くであろうけど)。
 
政宗と幸村と三成は口々に兼続の身に起きた惨状について説明する。
政宗と幸村は、もうこのまま兼続を佐和山主従に押し付けてお暇したいなという思惑から。三成は、最悪兼続がここに居直ることになっても左近に世話させよう、そんな思いから。
 
「記憶喪失、ですかい…よりにもよって兼続殿が一層厄介なことになりましたな…」
 
案の定、状況を把握した左近は、皆が思っていることを口走ったまま絶句した。
未だ襖への興味が尽きない兼続を横目で見ると、左近はとんでもない軍略を口走る。
 
「…なんでこんな状態の兼続さんを拾ってきたんですかい、お二人さんも。犬猫の仔だったら飼えないから元のところに戻して来いって言えますけどねえ…」
 
それは軍略でも何でもなく、しかも左近としては拾ってきたこと云々をとやかくは言うつもりはないが(だって分かってて見捨てたら人としてどうかと思うし)よくもまあ、仕組まれたように政宗と幸村の前に現れたものだ、兼続さんも。そんな意味合いの一言だったのだが、これに最も素早く反応したのは幸村だった。
 
「そうです!拾ってくる義理なんてなかったんですよね!犬や猫だったら可愛いから拾いますが、兼続殿ですし!」
 
幸村の言葉に雷に打たれたように政宗が立ち上がる。
 
「本当じゃ!あのまま見捨てて、いやいっそ海に流してしまえばよかったのじゃ!」
「いや、左近が言っているのはそういう意味じゃなくてですね」
「左近、貴様の軍略、今日は冴えているようだな」
 
左近の肩に鉄扇を据えながら話す三成の口調は、普段の三倍の優しさに溢れている。
 
「え?俺は軍略なんて披露してませんけど」
「俺にとって左近は唯の家臣ではない、同志だ。その左近が兼続は家では飼えないと言っているのなら仕方がなかろう」
「言葉尻を捉えて左近を悪者にして兼続さんを捨てる理由にしないでください、殿!」
「よし、善は急げじゃ!早速海に兼続を返すぞ!」
「待て政宗。海は遠くて面倒だ。近所の川にでも流してやればいずれ海に流れ着くであろう」
「さすが三成殿!そうと決まれば兼続殿、どうかお達者で!」
 
記憶をなくした兼続は、来るべき己の運命も知らず、まだ襖を開け閉めしては義だの愛だの叫ぶのみ。
 
「ちょ、待ってくださいよ!あんたらに人の心はないんですかい!」
「人の心か、確かにそういう青臭い感情も時には必要だ」
 
三成の澄んだ声が部屋に響く。それにうんうんと頷く政宗と幸村。
無双キャラ中、一二を競う青臭い餓鬼共に雁首揃えてそんなことを言われ、左近のプライドはちょっぴり、傷付いた。
 
「だが俺は気付いたのだよ、左近…秀吉様の御世、そして俺とお前があの日誓った志を守る為に犠牲にせねばならぬこともあるのだと!」
 
あの日誓った志?あの日っていつよ?
それらしいが全く内容のない三成の演説をうっかり聞いてしまった左近の隙をついて幸村が兼続を抱え上げ(少し兼続が抵抗したので幸村は容赦なく腹を殴って気絶させた)、政宗が馬を牽く。
とてもじゃないが普段いがみ合い(一部必要以上に仲が良いが)、すれ違っている三人とは思えない連係プレー。唖然とする左近を残して三人は悠々と兼続を運んでいく。
 
「…俺は、景勝公に連絡して引取りに来ていただくのが一番だと思ってたんですがね…」
 
その手があるなら初めからそう言え!と殴ってくれる主の後姿は、左近にはもう見えない。
 
 
 
 
 
「よく聞け、兼続。この川を下った先がお前の棲家だ」
「かねつぐ?何処かで聞いたことのある言葉だ…何だ、これは!頭が割れるように痛い!」
「まだそんなことを言うておるか!面倒じゃ、そのまま叩き込め!」
「たたきこむ?それは何かな?!思い出せん!一体これはどうしたことだ!」
 
勿論まだ記憶が定かではない兼続がいちいち話の腰を折る所為でちっとも会話が進まなかったが、幸村が「イカであるあなたはここにいてはいけないのです。この川から帰ってください」と誠心誠意(それにしては酷い言い草だ)頼み込むと、兼続はあっさり了解したようだった。
多少、イカとは何だ、という遣り取りがあることにはあったが。
 
元々思い切りの良かった兼続である。義と愛を高らかに叫ぶと、川に頭から飛び込み、頭だけを水面に出して大きく手を振った。
兼続の上げた水柱の所為で全身びしょ濡れになった三成は渋面を作りながら、上手いこと避けた政宗と幸村は晴れ晴れした表情で海に還っていく兼続を見守る。
 
「これで一件落着です」
「ああして水面に浮かぶ兜を見ているとタマちゃんを思い出すな」
「ああ、おったな、そんなのも。あれ、どうなったんじゃろうな」
 
こうして三人に平和が訪れた――勿論、束の間の。
 
 
 
 
 
川を下り海に出て再び昆布まみれになった兼続が、どういった海流の気まぐれか、計ったように越後の近海に流れ着き、地元の漁師の網を次々に食い破り始めたのがそれから二月後。(その時三成は既に少し嫌な予感がしていた)
 
漁の業を誇る名もなき領民(兼続にとっては、確かに領民だった筈である)に釣り上げられ、奇跡的に素性が分かり、景勝の許に送り届けられたのは、三人が兼続を川に離してからなんと半年後のことだった。(その報告を聞いた政宗は笑って取り合わなかったが、そこはかとない不安を覚えてはいた)
 
「兼続殿って凄いですね」
「ああ、始めはまさかと思ったが…人の可能性を軽く越えおったな」
 
兼続の記憶は戻ることなく、しかしそのまま上杉の宰相の地位に返り咲いたという話を聞き、三成は嘆息した。
馬も墨も服も分からぬ人間を宰相に再び据えるなど、どういうつもりだ。確かに、先代より政には大雑把な気風を持つ上杉、だがそれにしたって大雑把過ぎないか。
 
 
 
やがて天下を虎視眈々と狙う家康が上杉に目を付け、物々しい軍備その他諸々について糾弾する旨を伝えたのだが、景勝と上杉家臣団の必死の努力により何となく記憶が戻った兼続が天下の名文といわれる直江状を、間違って三成に送りつけ「あいつ…字は書けるようになったが俺と家康の記憶がまだぐちゃぐちゃなのか!」と家康そっちのけで怒りを露にすることになるのだが、それはもう少し先のお話。

 

 

本当あらゆる意味ですいませんでした。
(10/09/18)