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目の前に置かれたままの数学の宿題を放り出して、幸村は目の前の政宗に視線を移した。
元来真面目な性格が幸いして、そこそこの成績を保ってはいる幸村であるが、どう考えても勉強量では幸村に劣る政宗の方がそういう意味では出来が良いのである。
その政宗が自分と同じ問題集を開きながら眉間に皺を寄せているのを見て、こっそり安堵するのも無理らしからぬことだ。これなら、自分には答えどころかそこに至る糸口の見当すら付かなくても仕方がないのではないか。そう考えてしまう辺り、幸村も普通の高校生なのだ。
と、何かを思いついた政宗が、人差し指でペンを一周くるりと回すと、さらさらと解答を書き出した。
「それ、癖ですか?」
既に宿題のことは諦め、じっと政宗を見守っていた幸村が口にする。
「それ?何がじゃ?」
一瞬何のことか分からず、解答を書き終えた政宗が、頭を上げながら再び指でペンを回した。
「あ、それ、それです。ペン回し」
幸村に指摘されてはじめて、彼は自分の手元を見た。そう言われれば癖のような気もするし、幼い頃からそうやって遊んでいた所為で今でも手持ち無沙汰だとついやってしまうだけのような、ああ、それを癖というのか。
「私は出来ないんですよね」
頬杖を付いた左手で自分の頬を軽く弄びながら、ペンを持ったままの右手をぼんやりと眺めていた政宗だったが、からからと軽いものが転がる音と幸村の声で我に返った。
当の幸村は再びペンを拾い上げて何とか一周だけでもと四苦八苦している様子だ。
「そんなもの出来ずとも良いわ。大体そんな良い癖でもあるまい」
「そうなのですか?」
「頻度にもよるだろうがな。人がやっておるのを見ると気が散るという輩もおろう」
政宗の顔を見詰めながら話を聞く幸村。何か考え事をしているらしく、左手で自分の頬を擦っている。ややあって思い出したように「ああ」と呟いた。
「三成殿とか、そう仰りそうですよね。私は気になりませぬが」
「ああ、ほれ。それがお主の癖だろ?」
「どれですか?」
「考え事をする時、左手で頬を触っておるぞ。擦ったり抓ったりしておるので、時々赤くなるのではないかと思うことがある」
そうだろうか。自分では分からない。
政宗は幸村の真似をしているつもりなのだろう、左手で大袈裟に自分の頬を抓って笑っているが。
そんな政宗の姿に思いの外違和感を感じないことに気付いた幸村、その原因が分かり可笑しそうに言う。
「違います、それ、政宗どのの癖ですよ」
「儂はそんなことせぬぞ。お主じゃろう」
「いいえ、政宗どのが何かお考えの時には絶対そうなさっています」
妙に自信満々に言い切る幸村の言葉を反芻しようとした政宗の左手が、無意識に動く。
「本当じゃ。気付かぬものだな」
「ほら、政宗どのの癖でしたでしょう?」
「でもお主もやっておるからな」
「…うつったのでしょうか?」
「かもな」
おそるおそる尋ねる幸村に、嫌なのかと笑いかければ幸村も微笑んで首を振る。
「でも私の癖はうつらないのでしょうか?」
「さて、もう何かうつっておるやも知れぬぞ」
そうは答えたものの、政宗には思い当たる節がない。暫く幸村を眺めていた政宗だが、ややあって「あ」と小さく声を上げた。
「寝癖が付いておるぞ」
「そういう癖ではございませぬ!」
折角幸村自身でも気付かない癖を政宗が挙げてくれるのかと思えば、寝癖とは。思わずむくれそうになる幸村に、政宗が苦笑しながら手招きする。
「分かっておるわ。それはそれとして直してやるから来い」
結局どんな形であれ、構ってくれるのが嬉しくて仕方がないのだ。
膝立ちになった政宗の許に、ずりずりと正座のまま近寄る幸村。
「お主は身なりに全く気を遣わぬからな。きちんと櫛で梳かしておるのか?」
いつもと違って少し上から降ってくる本気ではない政宗の小言を聞きながら、その指で後ろ髪を撫で付けられるのはなんて心地良い。
「梳かしてはおりますが、後ろなんて見えないではないですか」
甘えるようにそう言って政宗の肩口にそっと額をつけると、ゆるゆると頭を左右に動かす。
「幸村、大人しくしておれ。…そういえばそれ、よくやっておるな。癖か?」
癖かどうか、やはり幸村は自分では分からない。
ただこうやって鼻先を相手にそっと擦りつけると、何だか近くにいることを実感できる気がするのだ。ただじっと抱かれているより、声も香りも、ずっと深く染み渡っていくような気がして。
「そうか、それなら儂も真似してみようかのう」
髪を掬われくすぐったいと抗議の声を上げる幸村の頬を両手で挟みこむと、政宗はそっと顔を寄せた。


二人の間に広げられていた宿題なんかは、既に蚊帳の外である。




ぎゃー、甘っ!と叫んで放棄した(最悪)ですので、ちょっと短めです。
最近、よく喧嘩したり言い争ったりしている気がしたので、政宗救済したると思って書いたのですが…うん、もういいや。

でもおでことか鼻とかくっつけてふるふるすると気持ちよくないですか?わたしが匂いフェチなだけ?
あと、自分ペン回すの出来ないので、何指でやっているのか分からないです。だがそんなことは問題ではない。
(08/05/16)