休日の伊達家は最近姦しい。


「貴様ら!人の家で寛ぐなと何遍言うたら分かるのじゃ!」
家主の叫びがこだまする中、テレビの前に陣取ってゲームをしているのは三成。
「叫ぶな。底が知れる。くそっ、このダンジョン長いな」
「その道は先も通ったばかりだぞ!MPも尽きそうなことだしここは一旦脱出するのが上策ではないか?三成。
 山犬、この迷宮はまだ先が長いのだろう?」
両親が留守がちでほぼ一人暮らし状態な上、広さも充分な政宗の家は既に集会場と化している。
三成の操るゲームの画面を熱心に見詰める兼続は、政宗に怒鳴られたことすら気にしてないようだ(が、今更なのでそれはそれで仕様が無い)。
「うむ。そこは中ボスもおるぞ、三成。って馬鹿めが!出てけー!」
偶に、ごくごく偶に、こういう風に皆でわいわいやるのも楽しいとは思うが、こうも毎週押しかけられては声を聞くだけで腹が立つというもの。
ええい、儂は幸村とまったり過ごしたいんじゃ!
「あ、あの申し訳ございませぬ。それではそろそろ私はお暇致し…」
「違っ!幸村に言うたのではないわ!帰るな、お主だけは帰るな!」
危なかった。何を勘違いしたのか席を立ちかけた幸村を慌てて座らせる政宗。
「宜しいのですか?」
「宜しいも何も、お主が居らなんだら儂はどうなるか分からぬ。…こ奴らと取り残されたらな…」
「…政宗どの」
後半は耳に入らなかったのか、なかったことにしたのか、幸村がうっすら頬を染めて政宗を見詰める。
いっそ、三成と兼続を家に残して幸村と二人で出掛けた方がゆっくりできるのではと政宗が思い付いた時。
「山犬、腹が減ったぞ!この家は客人に飯も出さぬのか!」
「だから出て行けと言っておろうが!」
少しは空気を読め、このイカ!
空気も何も、三成や兼続の前でいちゃいちゃしようとしていた政宗に言われたくないだろうが、それはそれとして空腹の主張をし出した兼続の弁は止まらぬ。
「ふむ、皆で卓を囲んで飯を食うというのも悪くあるまい!ならば早速支度をせい、山犬!」
「嫌じゃ。貴様に食わすものなぞ飯粒一つとしてあるか」
「また行き止まりか…」
三成はまだゲームに夢中だ。
「あの、私で宜しければ何かお作り致しま…」
「馬鹿め!幸村の作る飯を食えるのは儂のみじゃ!いいか、幸村。絶対にこ奴らに手作り料理など食わせるな」
兼続より素早い反応で幸村ににじり寄った政宗に気迫負けしたか、幸村がこくこくと頷く。
「おい、このダンジョン、本当に階段はあるのか?」
苛々と掌でコントローラーを弄ぶ三成を完全に置き去りにしたまま、昼食談義は続くのであった。


「はあ?飯?ピザでも取れば良いではないか」
結局ダンジョン内で力尽きた三成が、眉間の皺を普段の三割増で深く刻みつつ下した結論でこの諍いはあっさり片が付いた。
「では注文して参りますね。お電話お借り致します、政宗どの」
こういう仕事はいつも幸村に回ってくる。
幸村を部屋から送り出した後、しばらく茶を啜りながらテレビをぼんやり眺めていた政宗だったが。
あれは儂の住所を知っておるのか?普段出前など頼んだことのない二人である。
廊下に出てみると、ぼそぼそと幸村の声が聞こえてきた。どうやら無事住所を告げたところだったらしい。
住所まで諳んじているのか。そう思うと何だか面映く、政宗の表情も緩む。
と、幸村が突然言葉に詰まった。
「さな、じゃなくて、ええと、あの」
何じゃ?電話番号が分からぬか?
住所は分かっても電話番号が分からないというのも政宗からすれば複雑な気持ちだ。
「…だ、だて、でございます」
恐らくは名前を聞かれたのであろう。たかが名前、されど恋人の苗字を自分の名であるかのように他人に語るのは何ともくすぐったいもので。
「はいっ。あのすいません、宜しくお願いいたします。…すみません」
幸村は耳朶まで真っ赤に染めて、不必要な謝罪の言葉を口にしながら電話機にぴょこぴょこお辞儀を繰り返す。
「……びっくりした」
両手で頬を挟んで顔の火照りを冷ましながらまだ受話器を見詰めている幸村は、物陰から覗いていた政宗がその様に身悶えていたことや、「くそう、あ奴らさえ居らなんだら…」と少々不謹慎な妄想をしていることなど全く気付かなかったのである。




まぁ、人の名前を語るのは緊張しますよね。
ほら、ファミレスとかの順番待ちに誰の(どのキャラの)名前を書くかとか。ちょっと違う。
こんなの書いておいてなんですが、政宗はピザ、取らないと思いますよ?自分で作ったほうが安いし早いし。

4〜5月の拍手でした。