※政宗と幸は2ですが、上田城だけ無印っぽいです(なんのこっちゃ)。
いろいろ笑って許してください。伊達がアレです。下品です。昌幸パパも何だかアレです。
その日、幸村は上田城の周りを散歩していた。いや、実際に彼がしているのは散歩ではなくあくまで見回りで、真面目な幸村は槍を握り周囲に最低限の警戒を払いながら歩いていたわけであるが。
新緑が美しく目に映える。山間を縫ってそよぐ風は何とも気持ちよく、幸村が槍を持ったまま大きく伸びをした瞬間。
ぶに。
足の下に奇妙な感触を覚え、咄嗟に飛び退る。悪戯好きの父がまたこのようなところに落とし穴でも掘ったか、そう思い改めて見ると。
「…ま、政宗、どの?」
幸村の足跡をしっかり頬に残したまま、その場にボロ雑巾のように打ち捨てられていたのは、何を隠そう奥州王・伊達政宗その人であった。
「政宗どの、何故あのような処に」
政宗を思い切り踏んでしまった幸村であるが、当人が目を覚まさぬ裡に顔の足跡をそっと消し、そのまま政宗を揺さぶると呆気ない程簡単に目を開けた。
「幸村?何故此処に?」「それはこちらの台詞です」というお約束な遣り取りの後、見回りという任務を思い出した幸村が少々険しい顔で尋ねる。
戦のない平和な毎日が続いているとはいえ、それは一時のこと。未だ世は定まらず、ここに転がっている政宗も今後真田にとってどう出るか。普段はまるで犬か何かのように自分の後を追い、五月蝿いまでに慕ってくる政宗だが、その彼も今や独眼竜の名に相応しく奥州を統べる王である。油断はならない。
…まあ、少数で城に潜り込み闇に紛れて暗殺を企てるような卑劣なお方でもなければ、それを自ら請け負った挙句失敗してこんな所で転がっているような馬鹿でもないと思うのですが。
惚れた弱みか何なのか、ついつい心の中で政宗を弁護してしまう幸村である。
「うむ、夜這いに来た」
「よば…?」
「夜這いじゃ。分からぬか?儂がお主の許へ忍び入って情を交わし…」
幸村の拳が綺麗に政宗に決まった。先程心中密かに政宗を案じた自分が恨めしい。
昨夜は鍛錬の疲れからか夢も見ずぐっすり眠ってしまったが、もしかしたら政宗が部屋を訪れていた可能性もあったということか。そうしたらそうしたら。突如頭の中に巻き起こった不埒な妄想を振り払うかのように、幸村は激しく首を振った。
それは世間的に言うと「満更でもない」という奴に相違ないのであるが、本人が気付かぬ上、政宗も殴られた拍子に再び無様にひっくり返っていたので、幸村の反応を見ることは出来ず。奇しくも貞操の危機を少しだけ逃れた幸村である。
「そ!それが何故このような処で倒れておいでなのですか!」
「お主の城の罠がな。これがなかなか曲者で思うように突破できぬのじゃ」
「…罠、でございますか?」
父・昌幸がふとした思い付きで城内に、いや館内にまで罠を作り始めて一体どのくらい経っただろうか。
物心つく時分には兄と二人城内を駆け回って遊んでいたから、その後からだと思うのだが…いや、あの時自分は床から突如迫り上がってきた槍で怪我をした。とすると、この罠達はもしかして自分より長い年月ここ上田に根付いているのだろう。
いやいや、上田城における罠の変遷の歴史など今はどうでも良いことであった。幸村は嘆息する。
確かにここ最近罠が増えた。地下五階にある幸村の部屋の周りなど、もう大変なことになっており、幸村自身も自室に帰るのが少し面倒臭いと感じることすらある。
罠を作った張本人である昌幸ですら、もう罠を回避できぬと、先日幸村の部屋まで槍大筒を使い壁を壊しながらやって来たではないか。「跳んだり撥ねたりするのもこの年になるとしんどいわい」そう言っていたが、それでは本末転倒なのではないか。
「だが儂も黙ってやられておる訳ではないぞ!昨夜はやっと地下四階まで進んだ。五階は目前じゃ、のう幸村」
昨夜は?罠に思いを馳せていた幸村だったが、政宗の言い方に嫌な予感を覚え、おそるおそる尋ねる。
「あの、もしかして何度も挑戦なさっておいでで…?」
「何じゃ、知らなかったのか、お主」
じゃがそんなぼんやりしたところも益々もって愛いのう、と飛びつく政宗を叩き落しつつ、上田城に挑んだ回数を聞いた幸村は暫く絶句した。
「…に、二十六回目、ですか…」
「そう、もう二十六回も挑戦しておる!」
「何ですか、その数字は。まさか逐一ご自分で数えておられるのですか?」
それはそれで正直気持ち悪いと顔を引き攣らせた幸村の前に、政宗が紙切れを差し出した。
「スタンプカードじゃ!」
「す、すたんぷかーど?」
「一回挑戦するごとに、ここにスタンプを押して貰う。十回ごとに素敵な真田グッズプレゼント、とあってな。
儂はもう十回目の賞品・幸村くんマグカップと、二十回目の幸村くん等身大バスタオルを貰ったぞ」
「…はあ」
「そして儂はそのバスタオルで丹念に身体を拭き、朝はお主のマグカップで牛乳を飲んでおる」
「………左様でございますか」
最早突っ込む気もおきない。
「あと四回で待望の三十回じゃ。何が貰えるかのう。もしもそれまでに地下五階に辿り着いてもそれはそれでお主とアレじゃ!」
「……………そうですか、頑張ってくだされ」
心から嫌そうに、それこそ苦虫を噛み潰したような顔でぼそりと呟いたというのに、政宗は堪えない。どころかそれはそれは嬉しそうに笑うのだ。
「そうか、幸村も応援してくれるか。まかせよ!近日中に辿り着いてみせるわ」
幸村の手を握り、顔を覗き込みながらそう宣言される。
そうやって絆されていくのだとは露ほどにも思わず、つい「ご無事で」と言い掛けた幸村。政宗の無事は即ち自分の無事ではないという事実に思い至り、返答に困ってしまう。
「では今宵、会えるといいな、幸村!」
そんな幸村に屈託ない笑みを残すと、政宗はそのまま馬上の人になった。その姿を眺めながら。
「馬?何処から…?」
とりあえずは冷静になろうと、聞く者のいない突っ込みをしてはみたが、それでも幸村の鼓動は静まることなく。
政宗の姿が見えなくなっても尚、幸村はその場に佇んでいたのであった。
そんなことが昼間あったものだから。
「幸村、今日からそなたの部屋は地下六階だぞ」
夕食時、昌幸にそう切り出された幸村は汁を器官に詰まらせ咽せ返った。
「な、え?父上?」
「伊達の小倅に会うたじゃろう?」
父には誤魔化しなど通用しない。その辺り痛いほど分かっている幸村は大人しくこくこくと頷く。
「昨夜も忍び込んできたのでな、罠に引っ掛け城外に放り出してやったわい」
それであんなところで転がっていたのか。
「しかしさすがは伊達よ。もう地下四階まで行きおった。餌が良いのかのう」
餌って何のことですか、そういえば政宗どのの仰っていたマグカップとかバスタオルって何ですか。
怖いもの見たさに聞いてみたい幸村だが、本当に怖いことになりそうで結局口を噤んでしまう。
「だがわしも負けられぬ。わしの罠とあの小僧の情欲、男の意地を懸けた勝負じゃ!」
できればそういうことに互いに意地を懸けないで欲しい。むしろ事情を知っているならもっと普通に息子の貞操を守って欲しい。ああ、でも案外これはこれで二人は気が合っているのかもしれないし、いや、私が二人のことをあれこれ気にすることはないのだが。
「そんな訳で今後幸村の部屋には影武者を置く。そなたは新しく出来た地下六階に移るのじゃ、良いか?」
相変わらず父上は卑怯だなあ。その罠で身を守って貰っている幸村としては何とも言い難いのだけど、やはり。
ご無事で辿り着いてくださいと願うのは、そんなにおかしなことではないです、よね?
父上の罠は時折えげつないですし、もしも辿り着いてもそういうことをしなければいいだけの話ですし。
椀を握り締めたまま百面相を始めた息子を、昌幸は苦笑交じりに観察する。増築は地下七階くらいまでにしておいてやろうかのう。
それでも昌幸の渾身の罠の数々に何度も独眼竜は撤退を余儀なくされ。そんな政宗を保護し慰める為、幸村の毎日の日課に、上田城周辺の散策が付け加えられたのは言うまでもない。
〜おまけ〜
「で、毎日上田城の外で会っているのなら、それで良いのではないか」
久しぶりに上田城に遊びに来た三成は、罠が増えた城内におっかなびっくりではあったが、座敷(客人を通す部屋は一階にあるのだ)に通されると呆れたようにそう言った。
「ええ。私もそう申し上げたのですが」
「馬鹿め!夜這いは男の浪漫じゃ!もうすぐ、もうすぐ四階が抜けられそうなのだ。
それに初っ端から外でアレでは幸村も可哀想ではないか!」
「っ俺が言っているのはそういう意味では…」
「愛だな!山犬!確かにそれは少々不義かもしれぬ!私は外でのプレイもアリだと思うがな!」
兼続らの不穏当な発言は幸村にスルーされた。
「あの、ちょっと申し上げにくいのですが、私、只今地下六階に住んでおりまして」
「…馬鹿な…!」
驚愕の余り茶を零した政宗の膝を慌てて拭う幸村に、兼続が尋ねる。
「しかし幸村はその罠を掻い潜り自室まで戻っているという事だな。ふむ!流石は日の本一と讃えられる武勇の持ち主よ!」
「いえ、私共は普段罠のない抜け道を使っておりますので」
それでも部屋の周りの罠は避けねばならないのですが、と笑う幸村。動機はさておき、必死で罠と格闘する政宗の心中を思うと一同言葉も出ない。
「…あの、政宗どのさえ宜しければお教えいたしましょうか?」
その抜け道さえ使えれば難なく幸村の部屋へは辿り着ける訳で、それを教えてくれるということは、つまり。それって。
「よ、良いのか?幸む」
「不義ぃ!それは不義だぞ、幸村!
山犬の力をそなたが信じてやらずしてどうするのだ!山犬はそなたへの愛の為こうして頑張っているのだぞ!
さあ、我々は黙って何もせず見守ろうではないか、何もせず!なあ、山犬!」
「…っああ畜生!儂は、儂の力で見事幸村の部屋まで辿り着いてみせるわ!」
明らかに煽っているとしか思えない兼続に、涙を流して自力突破を宣言する政宗。真田の忍ですら最早突破不可能なその道を掻い潜って会いに来てくれるのは一体いつになることやら。幸村はそっと物憂げな溜め息を吐く。
お気持ちは嬉しいのですが、あまり待たせられるのも嫌なのですけど。
「幸村、地下七階が完成したぞ。どうする?そなたの部屋をまた移すかのう?」
ごとごとと国崩し砲に乗った昌幸が、衝撃の事実を引っ提げ目前に迫っていると知れば、政宗の反応もまた違ったものになったのであろうが。
無印の城は本当に難しいです…わたしは嫌いです…なんか暗くて怖いし。
でも真田だったら物凄いえげつない罠をたくさん仕掛けてくれるだろうなあと思って。というかそんな地下に住んでいる時点で何だか嫌ですね。
政宗も幸も無印で良かったんですが、兼続を出したくて(笑)2にしました。
そして相変わらずなんだか下品ですみません。
(08/06/05)