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※死にネタです。ダテサナではないかもです。政宗の晩年です。梅ちゃんが名前だけ出ます。
あ、めずらしく戦国ベースです。
目の前に整然と並ぶ堂々とした陣容を見下ろし、真田幸村は満足気に目を細めた。
己の覚悟は既に決まっている。強いて心残りがあるとしたら、九度山とこの斜陽の大坂城くらいしか知らないであろう娘・阿梅の行く先だった。
彼の人であれば、必ず。
碌に互いを知らぬまま、無残にも埋め立てられた大坂城の堀を間に向き合って、それでも尚独眼竜と恐れられたあの男を信じている自分が少し可笑しかった。
乱世は急速に終息しつつある。しかし世の本質は変わらない。
戦の代わりに策謀が渦巻く太平で、野望や欲望の為に振るわれる刃は無くならねど、武士は消えねばならない。
だからこそ、私の娘を。私の血ごと貴方に託すのです、政宗殿。
真田幸村の亡骸の前に立った主を見た時、片倉小十郎重長は情けないことと知りつつ己の身体が震えるのを止められなかった。
「重長」
「はっ」
「徳川の天下だ。伊達は、残すぞ」
幸村から目を離さずにそう呟く政宗の顔は見えなかったし、見えずとも良かったと重長は思っている。今でも。
「幸村はその目に滅びばかりを映してきた」
徳川による支配は磐石なものとなり、その礎を築いた家康は疾うに死んだ。
既に徳川幕府も三代目にあって、しかし仙台藩初代藩主は尚健在であった。
例えば酒の肴に、未だ口にするのも憚られる嘗ての武士・真田幸村を論ずるくらいに。
「儂はあの瞬間まで天下を狙っておった。徳川に尾を振りそれでもいつかは、とな。
しかしその幸村が言ったのじゃ。伊達は滅びぬと。故に阿梅はここにおる」
儂は天下を徳川に呉れて遣ったのじゃ。そう言って政宗は杯を傾ける。
「あれは武士だった。儂が武士であることを放棄した今、最後の武士は正しく幸村であった」
その幸村が最後に娘を託す。
それは打算すらない親心だったかもしれない。だが思ったはずだ、伊達であれば、あるいは。
「たとえ地に塗れ泥水を呑んでも儂なら生き延びると踏んだのであろう。そしてその忠臣・片倉もな。のう、重長」
「……」
「そしてそれは正しかった。あれの忘れ形見、徳川の世で儂が残せず誰が残せるか!」
重長は答えない。否、答えられるはずは無いであろう。
それを横目で見やって軽く笑うと、政宗は杯を置いた。
「ただ今となっては時折思う。儂が徳川に頭垂れず、武士のままだったら。あれと同じ地平に立てたのか、と」
「殿!」
「気にするな、戯言じゃ」
奥州にも遅めの春が来る。開け放した障子から桜の花弁が音も無く部屋に舞い降りた。
伊達の章で。幸村に触発されて天下をとるんだったら、
娘(達)を託した幸村の気持ちを汲んで徳川の下生きていってやると思うのもありかと思いました。
(08/04/01)