※直江に女がいます。三成視点です。
草木も眠る、うららかな休日の昼下がり。
いや、草木が眠るのは丑三つ時か。そんなことはどうでもいい。こんな長閑な午後は久しぶりだ。
少々若さには欠けるかもしれんが、今日は思い切りごろごろ過ごしてみせる。
そんな決意も新たに目を閉じかけたその時、無遠慮なメール着信音が部屋に響き渡った。
舌打ちして携帯を取り上げ、ディスプレイに目をやって再び舌打ち。
『義の危機だ(-_☆)至急集合せよ!』
貴様はどうあっても俺の貴重な休日を邪魔するか、兼続。
兼続の家に最後に着いたのは俺だったらしい。
政宗の叫び声が外まで聞こえている。中の惨状を一瞬で正確に把握した俺はうっかりきびすを返しそうになった。
「兼続!一体何のつもりだ!大体これから儂は幸村とデートだったんじゃぞ!!それを貴様は…貴様は!」
「利に敏い山犬が吼えるな!
義の志に少しでも触れさせてやろうというこの直江山城の心意気、感じ入るがいい!不義の輩め!」
それ程不快なら兼続のメールなど無視すればよかろう。
「三成殿、お待ちしておりました」
まあ、あれだ。大方政宗も、今俺の目の前でほんわか笑っている幸村に「兼続殿が大変なのだそうです。どうか一緒に来てはいただけませんか?」と言われて逆らえなかったであろうことは火を見るよりも明らかだ。
しかしこのままでは埒が明かん。
どう好意的に考えても『義の危機(-_☆)』(なんだこの顔文字は。不快だ)等ではないだろうから、俺は早く帰って寝たい。
「で、何があったのだ、兼続」
「おお!三成か!これはいい!お前の義の援軍があれば百人力だ!
正に大一大万大吉を実行している友を私は誇りに思うぞ!」
御託はいい。用件を言え。
「実はお船の誕生日が刻一刻と迫ってきていてな!」
まさか。貴様は俺に手前の女の誕生日プレゼントを選ぶのを手伝えとでも言うつもりか。そんなことで…!
俺はがっくりと膝をついた。
意外なことだが、直江兼続には女、こういう言い方をすると幸村に窘められるな、彼女とやらがいる。
どういう経緯で付き合い出したのか、順調に交際は進んでいるのか、兼続の何処が良かったのか、そもそもどんな女なのか、というか本当に生き物なのか、様々な謎が叫ばれるところではあるが、政宗の言葉を借りれば「人の、特に兼続の恋路など儂には何の興味もない」とのことで、俺もそれには同感だ。
その興味ないことに結局は巻き込まれてしまうのであるが。
「私はイベントごとに必ずお船に何か贈り物をすることにしている!幸い私の義により交際も長く続いている!
さすれば自ずと贈り物の候補も少なくなってくるというもの!
こうして集まったのも何かの縁!各々、義に溢れた忌憚無き意見を聞かせて欲しい!!」
集まったのは縁などではない、貴様のメールで、だがな。
「アクセサリーとやらでよいのではないか?のう、幸村」
さっさと終わらせて幸村とデートの続きがしたいのだろう。政宗が大人しく案を出す。
まあ、無難だな。人により好みが別れるところではあるが、貰って怖気がするという女子はおるまい。
「はい。兼続殿の誠意が伝わればその方もお喜びになるのではないでしょうか」
「アクセサリーはあげ尽くしたのだ!
そもそもお船は華美に己を飾るような下賎な輩ではない!一通りあげてしまえば、後はもう持ってますと返されるのがオチだぞ!!
というか前回は正に返されそうだった!それを泣き落として受け取ってもらったのだ!この私の義の心が試されているのだ!!」
泣き落としたか…というか贈り物はそこまでしてすべきものなのか?あとで左近にでも聞いてみるとしよう。
奇声を上げて項垂れる兼続。政宗はもう飽きたのか、ごろごろし出した挙句幸村に寄りかかりながらジュースを飲んでいるし、幸村はそんな兼続をおろおろと見るだけだ。
一応、俺が何とかした方が良いのだろうか。正直気が進まん。
それでも兼続に手を伸ばしかけた時、物凄い勢いで再び兼続が起き上がった。
「幸村!幸村は山犬の誕生日に何をくれてやったのだ!」
「えぇっ?!私ですか?あの、私は、特には…」
なんて事を聞くのだ、兼続!
確かに身近にカップル(敢えて言おう)がいるのであれば、その意見を参考にしてもいいだろう。
だが幸村だぞ!いや、政宗と付き合っているのだぞ!
もしもこれで「私を…」などと顔を赤らめて言われたら俺はどうしたらいいのだ!!
というか既に幸村は何を思い出しているのか可哀想なくらいに赤面しているし、政宗は兼続が幸村に絡んでいるというのに珍しく我関せず…
肩が小刻みに揺れているではないか!思い出し笑いか?!何があったのだ!幸村!!
俺の心の裡に吹き荒れている動揺など一切省みられず、兼続と幸村の会話は続く。
「あの、特に、これといったものは、渡せませんでした、ので」
「ふむ!仕方ないな!
そういえば私も幸村や三成に誕生日の贈り物などしたことがなかったしな!すまない、幸村!」
「い、いえ。私もお役に立てず申し訳ございません」
「ならば幸村は誕生日に山犬から何を貰ったのだ?!」
兼続ううう!その自ら放った質問の不自然さを貴様は感じないのか?
今しがた、男同士で誕生日のプレゼントなど贈り合わないという結論が出ただろう!
もう幸村のことは放っておいてやれ。きっとさぞかしこんなところでは言いにくいようなプレゼントを貰ったんだろ…
「食事を、作っていただきました」
な、食事だと?
「はい。政宗どのの作るご飯はとても美味しいのです。
普段からあれこれ作って頂くことが多いのですが、折角の誕生日だからと政宗どのがいつも以上に腕を揮ってくれて」
そう言って幸村はうっとりと政宗を見つめる。
その頬が心なしか上気しているのは、政宗への思慕か、あるいは飯の味を思い出しているのか。
餌付けにまんまと成功したという訳か、政宗。それにしても
「信じられんな」
「頼まれても貴様らには作らんぞ」
「それだぁぁあっ!山犬ぅぅ!!」
僅かな時間だが、、先程まで珍しく押し黙っていた兼続が、再び奇声と共に政宗が持っていた漫画(どうでもいいが政宗は勝手に兼続の漫画を読んでいたのだ)を引っ掴んで投げた。
「頼む!この直江山城守兼続、一生の頼みだ!
私に料理を教えてくれ!!」
「嫌じゃ」
「食事!それは人が生きていく上で到底欠かすことの出来ぬ営み!これを正しく、そして美味しく頂くことこそ正に義!
しかも私が料理上手だと知ればお船も私の有難味に気付くであろうし、さすれば私の株も急上昇だ!
頼む!私も『兼続殿の作るご飯はとても美味しいのです』と恥じらいながら言われたいのだ!頼むぅ!」
なんだ、この必死さは。
しかもどこに義が?というか打算やら欲望やら丸出しで見苦しいぞ、兼続。
実はお船とやらと上手く言ってないのか?
そのとき、土下座よろしく床に這いつくばっている兼続に幸村が追い縋った。
「兼続殿!この幸村、兼続殿のお志に感服仕りました!及ばずながら私もお手伝い致します。
どうか政宗どの、兼続殿の願いを叶えてあげてくださいませ」
多分、政宗の腹の中は煮え繰り返っているに違いない。
しかしこうなった以上もう勝負あったも同然だ。
「…兼続、料理なぞそう短期間に上手くなるものでもないぞ?」
「うむ!では今日からみっちり修行しよう!半年もあればそこそこ形になるであろう!
頼むぞ、山犬!!」
半年?
「ああ!半年後のお船の誕生日が待ち遠しいな!三成!幸村!」
満面の笑みでガッツポーズを作る兼続に、もう俺は、多分政宗も、乾いた笑いを返すことしか出来なかった。
料理編に続く。嘘です。続きません。多分。
ダテサナを妄想する殿が書きたかっただけです。すいません。
政宗の誕生日に幸ちゃんに何があったのかは謎ですが。
三成の妄想みたいなことはないんじゃ?…ごめん、完全に見切り発車だし…。
(08/04/05)