※私は微エロのつもりです…なに、この情けない注意書き…。

 

 

 

幸村を起こさないように細心の注意を払いながら、政宗は痺れかけた左手をぶらぶらと動かした。
自分の左肩に顔を埋める幸村の表情は分からないが、聞こえる寝息に乱れはない。カーテンの向こうはまだ紛うことなく夜の気配が立ち込めている。
手を伸ばして枕元の携帯を手に取ろうと思ったが、そうじゃ、昨夜幸村の腕が当たってベッドの下に転がったままだと思い直した。恐らくは四時前か、まあそれは当っていようが間違っていようが、儂には関係ないことじゃ。
 
目は完全に覚めてしまった。
昨夜は昨夜でなかなか頑張ったので、もうちょっと寝てもいいのだが、大体今日は休みなのだし。
 
眠ることを推奨している筈の政宗の脳とは裏腹に、彼の手は色々忙しい。例えば、頬にかかる幸村の髪を整えてやったり、布団を掛け直してやったり。そのうち眠ることも忘れてどうでもいいことを考え出すから、一層眠気は遠ざかる。今日は晴れるだろうか、だとか、二人分の朝食に充分なものは冷蔵庫に入っていただろうか、とか。或いは、もう少し幸村が上を向いてくれたら、その額に口づけられるのに、とかについても。
 
 
 
「幸村」
 
昨夜はすまぬ、と聞いてないのをいいことに謝ってみた。
われながら最悪のことを情けないタイミングで謝っているという自覚はある。
幸村が起きていたら「謝らないでください」とか何とか脹れるに違いない。違うのだ、謝ってそして無かったことにしようと思っているのではなくて。本当に昨夜は歯止めが利かなかった。ああ、ちょっと酷いことしてるな、とも思った。いつもは盛り上げる為にしか使われぬ意味を無くした拒絶の言葉だが、昨日「やめてください」と言った幸村の声は結構本気だった気もする。なのに、抵抗らしい抵抗もせず、きつく目を瞑り唇を噛んだまま黙ってシーツを握った幸村は、哀れできれいだと思った。
小さな子供のようにぶるぶると勢いよく首を振ったので、目が回るんじゃないかと心配したのだ。もっとすごいことまでしてるのに、目が回るのを気にするなんて可笑しな話だ。それは兎も角、空いていた右手で髪の毛を掴んでやめさせたら、目尻にはうっすら涙が浮かんでいて、やっぱり可哀想で酷く欲情した。しかし怖がらせるのは本意ではないと思い、そのままきつく抱き締めたのだ。
なのに幸村は、そんなことでもう嬉しそうな顔をする。こわれものを扱うように、ゆっくり大事に抱いた時と同じような笑顔を見せるのだ、さっきまでの自分のした仕打ちを忘れたように。
 
 
 
忘れて欲しいのか、それとも本当は怯えて欲しいのか、それは政宗にも分からない。
ただごく偶にそうやって幸村を抱きたくなるし、それが過ぎ去ってしまえば埋め合わせをしなければと思う。思い切り優しくする、労ってやりたい。倒れこむように眠ってしまった幸村の身体を拭ってやって、一晩中抱き締めて眠るのだ。
そんな自分の決意はなかなか固いらしく、そうすると大体次の日の朝、腕の痺れで目が覚めるという訳だ、今日は少々朝が早過ぎたが。
 
 
 
そんなことを思っていたらどうにもたまらなくなったので、髪を指で弄びながら何度も頭にキスしてみた。これくらいなら目は覚ますまい、どうせぐったり疲れているのだ。そう思った途端、肩の辺りからくぐもった声が聞こえてきて吃驚した。
 
「政宗どの」
 
起きたのか?と聞くと黙って政宗を見上げる。まだ夜じゃ、寝ろ。そう言って瞼に軽くキスしたのは、余りに真剣に幸村がこちらを見ていたからだ。
「政宗どの」幸村の声は寝起きとは思えないほどはっきりしていて、政宗は幸村に回していた腕を解いた。
 
「からっぽになってしまったみたいです」
 
そう言うなり、幸村は政宗の手を両手で握る。そのまま政宗の掌を自分の胸にぴったり付けて、幸村は大きく息を吐いた。
 
「からっぽ?」
「大丈夫、こうすればすぐにいっぱいになります」
 
うっとりと眸を閉じてそう宣言する幸村を見ていると、本当に自分が何かを幸村に注ぎ込んでいる気分になる。養分とか体温とか、そういう類のものを。
やっぱり昨日はもっと優しく抱いてやれば良かった。布団からはみ出た部分はもう肌寒いのに、掌は汗ばんで、どちらの汗か分からない。
 
幸村が、まるで大盛りのご飯を食べ終わったかのような満足そうな溜息を漏らし、それで政宗は幸村が「いっぱい」になったと知る。
 
「幸村、からっぽは嫌か?」
 
何故ですか?と幸村が首を傾げた。こうすればあっという間にいっぱいになりますよ?それにからっぽになるのは、政宗どのがそーゆー風にした時だけです。少しだけ投げやりな調子で答えた幸村は、暫く黙ってそして政宗の指をそっと咥えた。
 
「いっぱいだと安心します。でもからっぽはすごく気持ちいい」
あなたにすら省みられず、でも抱かれるのは気持ちいい。政宗どのが私をいっぱいにしてくれることを知っているから、余計に。
 
「怖かったり、嫌だったりはせぬか?」
 
真剣に尋ねたつもりだったのだが、幸村は随分長いこと可笑しくてたまらない、といった感じに笑っていた。さすがにバツの悪くなった政宗が話し掛けようとしたら、あっという間に口を塞がれた。
だって私を怖がらせてくれたり、嫌がらせてくれるのは政宗どのでしょう?
キスしたままそう囁く幸村の台詞が終わるか終わらぬうちに、政宗は幸村の唇をそっと舐めた。
 
 
 
 
 
「ここまでしといて何だがな」
幸村を組み敷いたままで政宗が言う。
 
「いくら何でも昨日の今日で身体がしんどいじゃろう?辛かったら辛いと」
「本当、ここまでしといて何ですね」
 
確かにこれぞ正に最悪なことを情けないタイミングで聞いているのであって、すごく格好悪いとか思うがそれでも自分は幸村を痛めつけたい訳ではないので。
面倒臭い葛藤をはじめた政宗を幸村は黙って見詰める。
 
そんなこと、考えても無駄なのに。だって自分は政宗を動かす方法を知っている。
 
「大丈夫ですよ。優しく、してくださるのでしょう?」
 
優しく、からっぽにしてください。
そう言おうとした幸村は、覆いかぶさってきた政宗が確かに耳元で「優しくからっぽにしてやる」と囁くのを聞いた。

 

 

 

まろ師匠が認定なさった三日〜七日の真田の日の誘い受幸…誘い受…?
伊達がかっちょわるいのは仕様です。どうやら私は事後が好きらしい。
(08/10/03)