絶体絶命、四面楚歌、前門の虎後門の狼。
伊達政宗は正に危機の中にいた。


「もしわたしのこと裏切ったら遠呂智様に言いつけるから」
妲己はいい。いざとなれば何とでもなるだろう。問題は
「武器を収められよ。我らはそなたの力を…」
こっちだ。


幸村とは長い付き合いになる政宗。幸村が本気で怒るとどうなるか、既に嫌という程知っている。

ある日冷蔵庫を開けると見覚えの無いプリンが入っていた。
大方、幸村の仕業である事はすぐに分かったのだが、当たり前のように自分の家の冷蔵庫を使ってくれていることが嬉しくて、更に蓋に「ゆきむら」なんて書いてあるものだから、それもまた可愛くて。
「政宗どの、私のプリン食べちゃったんですね!ばかばか!」
みたいないちゃいちゃを期待して、政宗は盛大ににやつきながら、いや、顔を綻ばせながらそのプリンを美味しく戴いたのだった。


その結果が今、政宗の目の前にある。
日の本一の兵と讃えられた愛しい恋人は、帰宅早々冷蔵庫の扉を開け。
「…人のものを容赦なく奪い喰らい尽くす。これも乱世の習い、されど!」
凄まじい気迫と共に、どこからか愛槍・炎槍素戔鳴を取り出し構えた。
「蛇蝎の如きその所業!決して許さぬ!」
「ちょ、待て幸村!待つのじゃ!!」
プリンくらいで何だ、この言われようは!
咄嗟にそう叫んだような気もするがその後の事は実はあまり覚えていない、思い出したくもない。
体力ゲージを真っ赤にしながら命からがらコンビニに走りこんで、ありったけのプリンを買い込み与えたものの、幸村の機嫌は戻らず。
結局、政宗が大量にプリンを作ることで(喉元に槍を突き付けられながらの状態で、それでも出来は上々だったので、政宗は本気で天はまだこの儂を欲しておるのかも、と思ったものだ)やっとこの惨劇は幕を閉じたのだった。


武器を収めろと言いながら、本気で攻撃してくる幸村。
収めろと言うならそちらから収めぬか!と叫んだところで多分彼は聞きっこない。
槍の軌道をぎりぎりで避け、刀を抜きかけた政宗の懐に飛び込んで、それはもう見惚れるような綺麗な笑顔で幸村はこう囁いた。
「遠呂智とやらに言いつけられるのと、今此処で塵芥も残らないまでに木っ端微塵にさせられるのと、どちらを選ばれますか?妲己の下僕殿?」
いや、目が笑っておらぬから。
政宗の目の前が真っ暗になった瞬間だった。


「お館様!政宗どのが協力してくださるそうです!」
「ええと、ちょっとそれはストーリー的に違ったんじゃなかったかのう、幸村」
「協力してくださるそうです!」
「…それなら仲間にしちゃおうかね、のう左近」
さすが甲斐の虎。幸村の矛先はああしてかわすのじゃな。
何だか色々投げやりな気持ちで武田主従の様子を見守る政宗。
「今回も一緒に戦えますね、政宗どの」
さっきまでの気迫は、殺気は何処へやったのだ。恨みがましく睨んでみたらえへへ、と可愛く笑われて。


ああ、もう。やはりお主は日の本一じゃ。色んな意味で。


ただ一つ、政宗がどうしても納得いかないことは。
「…プリンの時の方が必死に見えたのは何故じゃ…」
「何を言う、山犬!命があっただけでも僥倖だと思え!
 この私が恐ろしくて口を挟めなかったのだぞ!」
世の中には、納得いかなくても口を噤んだ方がいいこともあるのだ。




どうやら遠呂智の作った世界には冷蔵庫もプリンもあるらしいです。あとコンビニも…すいません。
知らない間に幸村がくいしんぼうキャラに。
妲己ちゃんに下僕宣言され、あわわわわと思ったのでつい。幸、黒いかしら?

今回二人が一緒の勢力ではないという事実から、わたしは目を逸らし続けていこうと思います(ダメな子!)
(08/04/08)