※ぬるいですが最中ですよ!直接表現はないつもりですが苦手な方は逃げてプリーズ。

 

 

 

愛情に理由も何もない。ましてや程度も単位も糞もないのは言わずもがなであって、「自分の何処がどのように、何と比べて如何ほど好きなのか」という質問は、馬鹿げているにも程がある。
 
まあ、もっと砕けて言えば「私の何処が好き?」だとか「私と仕事どっちが大事なの?」とか本気で尋ねてくる女(別に女でなくても良いが)が面倒臭いという考えは、結構な割合で賛成意見がもらえる筈で、そもそも比べられた時点で何を言っても負けなのだ。
貴様の方が好きだと言えば、では何故もっと愛情を寄越さぬかと叱られるだろうし、いくら何でも仕事の方が大事だと言い放つのは禁句だろう。かといって仕事と恋人では立つ地平が違い過ぎると説明するのも面倒臭い。もしも苛ついた恋人に「自分の何処が好きか」と聞かれ、全部、と答えれば、きちんと考えろと怒られるだろうし、一部を取り出せばそれ以外はどうでもいいのかと臍を曲げる。挙句の果てに「どれくらい好きか」だと?実際、別の何かと比べてみせれば不機嫌になるのは火を見るよりも明らかだろうに。世の中には正解のない、聞いてはならない質問が山のようにあるのだ。勿論、それを尋ねさせるような隙を見せた方も情けないのであろうが。
 
どちらにしろ、無様なところは互いに見せてはならない、そういうことだ。
 
 
 
割と真面目にそんな恋愛論を抱えていた政宗がそれをあっさり手放したのは、意外でも何でもない幸村の働きによるもので、自分は一体幸村にどれだけ振り回され塗り替えられてしまうのかと思うと、吐きたくもない芝居めいた溜息を捻り出しながらも頬が緩むのを止めることが出来ないのだ。
政宗の上に跨って暫く息を整えていた幸村が、そのまま政宗の肩口に顔を埋めるように音もなく横たわる。
 
とは言っても片肘で身体を支えているので重くはないし、何より腕を伸ばして政宗の髪を弄る幸村の指が心地良い。指だけでなくて首筋にかかるまだ熱い息も。それから頭の中で直接響いてくるような幸村の囁くような小さな笑い声も。
 
「政宗どのは、どれくらい私のことがすきですか?」
 
嫌悪、とまではいかないが、身構えるべきものであった筈のそんな質問さえ、幸村の吐息と共に耳朶に注ぎ込まれれば、もうそれは自分を誘う甘やかな口説き文句に他ならず、政宗はこの世に存在している様々なものを思い描きながら、未だ自分の腹の上に乗ったままの幸村の腰に手を回した。
この両手を広げたものよりずっと大きなもの。二人ぼっちの自分の部屋より、世界より、宇宙よりも果てがないもの。自分の命よりも重くて、今自分の腕の中で身動ぎしている幸村より愛おしいもの。
どのくらい、そう尋ねられたこの愛情を何を比べてやったら、幸村は喜んでくれるだろうか。
 
「また、ですか?」
 
そう身をよじる幸村を自分の上半身ごと抱き起こしたら、口元に笑みを浮かべたまま睨まれた。
 
「この世の全てよりも、儂よりも、こうされてるお主よりも、だな」
そんな簡単な答えでは駄目か。そう尋ねると幸村が頷いた。
 
「駄目です、もっともっと色々なものと比べてください」
 
そうして、あなたの世界に在る全てのものの隣に、私を置いてくださいませ。比べるってそういうことですよ。
「政宗どのの周りには色々なものがあるでしょう?もしも私が傍にいなくても、それらと比べられた私のことだけは忘れない」
 
 
 
ねえ、この枕よりも私のことが好きですか?シーツよりも、このベッドよりも?電池が切れたまま放りっぱなしの目覚まし時計よりも?
甘えた口調でそれでも目に映るものをいちいち指差して確認する幸村を見詰めながら頷いてやる。
 
理由や程度などないのが愛情だと思っていたし、それは今でも変わらない。でも「政宗どのがこの部屋で一人でお休みになっても、これでもう私のことを忘れたりしないでしょう?」そう微笑む幸村は何故だかいつにも増して愛おしいのだ。
卵焼きよりも?
今度は食べ物か、お主も際限を知らぬのう。そう言ったら、当然じゃないですか、ときた。先程に比べて喋るのも辛いであろう程息は上がっているのに、口が減らぬどころかすぐさま言い返してくる。
私が作る厚焼き玉子を誉めたのは政宗どのでしょう?恋敵が多くて大変じゃな、と呟いたら、そうなのですよ、とまた微笑まれた。その顔が余りにいじらしくて思い切り啼かせてやろうかと思ったのだが、こうしてやわやわと続く馬鹿げた会話を打ち切るのも勿体無くて一瞬動きが止まる。
なのに幸村はこちらの気も知らず「あの卵焼きは我ながらなかなか上手に作れましたけど、私の方が美味しいでしょう?」などと言いやがるのだ。畜生、本当に思う壺だ。儂はこれから卵焼きを見るたびに、自分に跨って肩を震わすお主を思い出さねばならぬのか。そのことがこんなに卑猥で愉快なことだなんて思わなかった。こんな見事に愛情を量る方法があるなんて知らなかったのだ。
 
 
 
テレビより?数学や物理よりも?犬より?恐らくは頭に浮かんだ単語をそのまま口に出しているだけであろう幸村の言葉が段々掠れ、途切れ途切れになり、その内意味を成さぬ只の声になるまで、政宗は返事をし続けた。
お主の方がずっと、好きだ、幸村の方が可愛いぞ。
もう比べるものも思いつかないのだろう、それでも幸村は政宗のその返事を真剣にそして嬉しそうに聞く。こんなことまでされて辛くない訳がないだろうに、それでも政宗の首に腕を回して縋り付く幸村は、無様で本当に愛おしいと思う。自分も聞いてみたいと思った。「お主は儂のことがどれくらい好きなのじゃ?」そんな質問自体がどんなに無様でも格好悪くても、意味さえなくても、聞いてみたいと思った。
 
 
 
「なあ、お主は儂のことがどのくらい好きなのじゃ?」
 
身体を動かすどころか、もう目を開けることすら億劫です。そんな雰囲気を漂わせながら横たわる幸村にそう聞いてみた。一瞬ぴくりと身体が動いたので確かに聞こえた筈なのだが、幸村は暫く黙った後、完全に政宗を無視して質問を返す。
 
「私と、枕元に落ちてた読みかけの本、どっちが好きですか?」
「幸村」
 
今度は儂の番だぞ。そう言いながらぐちゃぐちゃになった前髪を少々乱暴に掻き分けてやったら幸村が笑った。
 
「――って聞いてしまうくらい、あなたのことは好きですよ」
 
 
 
ああ、やっぱり敵わない。これしきのことが心から嬉しい自分は、一生幸村に頭が上がらぬのだろうなと思った。

 

 

 

抜かずに第二ラウンド?(謝れ)
おんまさんと正面座位、すきなものをいれてみました(とりあえず謝れ、な?)
(08/10/25)