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※エンパです。またいちゃいちゃエロエロしてます。が、ぬるいです。

 

 

普段より随分と声を押し殺しているように見えるのに、それでも自分の耳には幸村の息遣いまでもが甚く響いて届くのは、幸村の姿勢がいつもとは違うからだろうかと政宗は思う。
 
寝所まで、間に合わなかった。
 
幸村を壁に押し付けるようにして政宗が乱暴にその口を吸った時には、正に「間に合わなかった」という言葉がぴったりくるような状況だったと思うのだが、それでも幸村は抵抗すべきか否かについて少々悩んでいたようであった。
そんな風に自分を見くびった幸村の甘さに更に調子に乗って、袷からそっと指を差し入れたら、やっと幸村が小さく首を振る。馬鹿め、もう遅いわ。このような処で、とか何とか、幸村が小声で咎めたような気もしたのだが、既にじっとりと熱を孕んだ言葉は、とても諌める為に発せられたものとは思えぬ。
 
 
 
普段は、ああも見事に一分の隙もなく槍を振るうというのに。
しゃんと背筋を伸ばし、かといってとっつき難さなど何処にもない。口元に静かな微笑を漂わせて、その武だけでなく人となりにおいても、非の打ち所がないかのように振舞っている幸村が。
 
 
 
周囲から他者の気配が完全に断たれたところで、まあ簡潔に言えば二人きりになった瞬間、幸村がほっと微かに息を吐いたのを、政宗は見逃さなかった。
いくら情を交し合った仲とは言え、政宗は伊達家当主であり、幸村はその家臣である。それなのに、自分と二人きりになった途端、張り詰めていたとすら言えぬ心地良い緊張すら、こ奴はあっさり解いてしまうのか。小十郎とか成実とか、気心しれた同僚達よりも、横暴で我侭で面倒臭い(余談だがこれらは全て幸村が政宗に放った言葉だ)儂と共に居る方が気が休まるということじゃな。
 
その辺りを深く追求したら、愛おしさの余りこんな真昼間から抱いてしまいそうだったので、軍議が終わって二人だけになった広間を素知らぬ顔で、だが慌てて後にした。
無論、幸村をその場に残して。
 
しかし幸村はまるでそれが当然と言わんばかりに静かに後を付いて来る。「どちらに行かれるのですか?」とも「御供致します」とすら、言わなかった。
 
 
 
「幸村」
 
別にその後何と声を掛けるか決めていた訳ではないが、一先ず名を呼びながら振り返った。
幸村を部屋に置いて出たとはいえ、自分は己の裡に沸き起こった愛おしさを持て余したのであって、幸村自体を持て余しているのではない。むしろ、こうして付いて来るというのであれば大歓迎だ。
鍛錬でもするか庭に出るか茶でも飲むか、或いは本当に褥の支度をさせるかはこうして呼び掛けながら決めれば良いと思ったのだ。
 
ついさっきまで自分が呼び掛けると「はっ」とか何とか、真面目腐って応えていたというのに、此度は目が合った途端へちゃり、と笑いおった。
相手の警戒心を解こうとか、快い印象を与えようとか、そういう思惑の一切ない笑顔。笑顔というより顔を崩しただけの。
確かに見目だけでいえば普段の笑顔は美しいと思う。深い深い、それは政宗に凛と寒い、だが何者も拒まぬ早朝の静けさを思い起こさせる。だが。
 
最早政宗の為ですらなく、自分の思うままに顔の筋肉を弛緩させただけのこの顔には敵うまい。でへへ、とかそういう声が似合いそうで、実際幸村は到底文字におこせぬような奇妙な笑い声を立てたりもするが、惚れた弱みなのか何なのか、政宗の心中の可愛くて仕様がないランキング不動の一位は、やはり幸村のこの仕草なのである。
 
そうなってしまえば、頭の回転も速いが手も早い政宗が我慢できなくなったのは仕方のないことで、寝所まで間に合わなかったというところにようやく話は帰結するのだ。
 
 
 
真田の軍略に隙なんてありませんよ、そんな顔をしておきながら、自分の腕の中で隙だらけの幸村は本当に愛いと思う。政宗が呼べば、警戒心の欠片も無く毎度毎度ぼてぼてと寄ってくるので、時々阿呆かとも疑うが、自分限定で阿呆になる恋人など至宝以外の何物だというのだ。
その宝物が、睦み合うには場所が不満だと身体を捩って政宗を困らせてみせる。
 
「隙だらけのお主が悪い」
 
形の良い耳を舐めながらそう囁けば、政宗の目の前に差し出されたその耳が、面白いほど真っ赤に染まった。これでは、人前ではかっちり振舞っているが、政宗の前では甘えに甘えていることを自覚している、と幸村が白状したも同然で、儂を煽って誘っているのかと問いたくもなる。
しかしあえてそれを口に出すのは我慢して代わりに、此処で大人しく抱かれよ、と言ってやった。わざわざこう口にするのは無論、幸村の羞恥を更に掻き立ててやる為で、腕を振って抵抗を示す幸村は、これすら政宗の思惑通りであることなど露にも思っていないに違いない。
 
ひとしきり幸村の抵抗を受けた政宗が「暴れると人が来るぞ」と言えば、またすぐに大人しくなる。人が来て困るのはお主もだろうが、むしろ儂の方じゃろう。
うっかり小十郎あたりが今の状態を知ったなら、完全に政宗が悪者で、「政宗様、幸村殿も困っておりましょう、いい加減になさいませ」と雷が落とされるのは必定なのだ。幸村が本当にこうされるのを望まぬならば、その方法が一番の上策であろうが。
政宗は今のうちに、と幸村の腕を後ろ手に素早く縛り上げた。勿論、痛みはないように、だが外れぬように。
 
「何じゃ、お主も続きがしたいのか」
 
一方幸村はそう言われてやっと自分が抵抗をやめるその意味に気付いたようだ。だが既に時遅く、腕は縛られ腰は壁に押し付けられている為、動くことも侭ならぬ。徐々に早くなる息遣いの合間に政宗の名を呼ぶことが、自分に出来る唯一の抵抗だと幸村は思っているようだが、説得力などある訳がない。
 
「ま、さむね…さま?」
現に深く重ねた唇を離せば、そう言って名残惜しげに首を傾げるではないか。
 
先程より幾分か幸村が不安そうに見えるその原因が、このような場で秘事に耽るということではなく、自分の腕を拘束する布切れの所為だと確信した政宗は、幸村を立たせたままでその場に突如しゃがみ込んだ。
 
「転ぶなよ」
探るような指先での愛撫も何もなく、突然舌先で与えられた刺激に身体を大きく震わせた幸村の腰を支えてはやるが、口は離さぬ。先端の形を確かめるように舌でゆっくりなぞり、慈しむように小さく歯を立てて、ずるずると大仰な音と共に啜り上げたら、幸村が顔を背けてきつく目を瞑った。
 
「いいから見ておけ」
 
上から見下ろしている幸村には、さぞ直視し難い光景であろうことが分かった上でそう命じれば、いやいや、と首は振るものの、幸村は言われた通り、目を閉じる自由すら政宗に差し出すのだと言わんばかりに、おずおずと此方を見下ろしてくる。
己が犯される様を目の当たりにする気分はどうだ、と尋ねたのだが返事はなく、熱の篭った途切れ途切れの声で名を呼ばれただけだった。
 
すぐによがらせるのは詰まらぬと思い、勝手知ったる情人の身体を僅かに箇所をずらして丹念に舐めてやる。
がくがくと今にも崩れ落ちそうな足の間から、きつく握り締められ白くなった幸村の指先が見えた。
縛られ、腕自体が動かせないからだろう。快感ともどかしさを包み隠せぬまま、救いを求めるように、指の腹でかりかりと背後の壁を擦る動作すら愛おしくて、眩暈を起こしそうだった。
 
普段であれば布団や着物の裾や、あるいは己の指でも政宗の肩でも、口に押し当て噛み付いて声を殺すのだが、そんな寄る辺が何も与えられない幸村が小さく声を漏らす。
「…っん、あ」
それはごくごく小さな音だったのだが、仄暗い板間の廊下では僅かに響いてしまう。政宗が見上げるまでもなく、唇をきつく噛んで、声を息を必死で抑えているのが伝わってきて、痛々しさの余り此方の抑えが利かない気分にもなる。
声など我慢するな。そう言っても聞かぬであろうから、いっそ深く接吻して口をこじ開けて楽にさせてやろう。
そう思って口を離した瞬間、自分の唾液が長く糸をひき、それが目に入ったのであろう、上から幸村がこくりと咽喉を鳴らす音が聞こえた。
 
暴れるなと言えば大人しくなり、転ぶなと言えば震える足で必死で身体を支える。
そして見ておけと命じられれば至極素直に応じるのだ、この馬鹿は。まるでそれしか愛情を示す手段を知らぬかのように。
「政宗様がそう仰るなら」きっと幸村は当たり前のことのようにそう言うのだろう。政宗の何もかもを盲目的に信じてくれる訳ではないのは知っている。幸村はそんな盆暗ではない。
 
だが、こんな戯れの最中に、頼れるのはあなただけですと言わんばかりの態度がどれだけ自分を勇気付けているのか、幸村は多分知らぬのだとも思う。
 
 
 
一旦身体を離して指先で頬をなぞれば、幸村が口を開く。
まだもしつこく、嫌とでも言おうものなら、言葉通り暫く触れずに放っておいて苛めてやるのも良い。もっと、と強請ってくるのであれば、口も利けぬほど攻め立ててやる。そんな物騒なことを考えながらも、あくまで優しく髪を梳いたら、幸村が小声で言った。
 
「…う、れし…です」
 
眸に涙をいっぱいに溜めて余りに綺麗に笑うものだから、一瞬何を言われたか分からなかった。
うれしいです、まさむねさま。
へちゃり、という擬態語が最も似合う、あの可愛らしい笑みのまま、幸村がそう繰り返す。その頬をはらはらと伝う涙を、政宗はまるで恋を覚えたての餓鬼のように唯々突っ立って見ていた。
 
「まさむねさま」
 
幸村が再度呼び掛ける声にやっと我に返って、可哀想なくらいに火照った身体をきつくきつく抱いてやる。
解いてください。腕の中の幸村にそう頼まれれば却下する理由など何一つ思い付かず、政宗は幸村の腕を繋ぎ止めていた紐をするすると解いた。すぐに幸村の腕がしっかりと回される。
「嬉しいです」
馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが、こんなにも自分を慕う幸村は本当に馬鹿だ。その幸村の涙に見惚れて、挙句腕を回されてそんなこと囁かれたくらいで吹っ飛んでしまうような軽い歯止めしか持っていないような自分も。
 
「さっきまでの分も、手を、握っていてください」
 
丁寧に、だが先程の政宗とは比べ物にならないような断固とした口調で幸村が言う。
こんな場所で、手を繋いだままでやるのは少々困難だな、そう思いながらも、幸村の望みなら、幸村が命じることなら何でも応じてやると思っている政宗は、当然のように掌に力を込めた。

 

 

 

書きたかったのは後ろ手に縛られている幸村であります!
(09/01/07)