今まで自分はずっと比較的大人しめの性分だと思ってきたが、それはもしかして全くの勘違いではなかっただろうか。幸村にはふとそう思う瞬間がある。
義―義―叫び回り、己が不義と認めたものには何が何でも噛み付かなければ気が済まない兼続に、決して悪人ではないのに口と態度の悪さによって取っ付き難さでは他の追随を許さぬ三成。
一度深く付き合ってみれば彼らの人となりも分かるのだが、趣味が敵を作ることではないかと疑ってしまう程、まずこの二人は世間に対して自分を飾ってみようとしない。例えば他人の家のポストに不義を告発する(せいぜい『家康め、町内会の草むしりに参加しないか!』というものだったのだが)手紙を置いてきたりだとか。
余りにも目立つこの二人が近くにいるから気付かなかっただけで。今更ながら兼続や三成の特殊さに気付いた幸村は溜め息を吐いた。もしかして私も大概酷い奴なのではないでしょうか。
「酷くない」
そう尋ねた幸村に政宗は即答した。何故わざわざお主をあの馬鹿共と同じ土俵で語らねばならぬのじゃ。不愉快だ。お主は、烏賊や狐とは比べ物にならぬぞ。
政宗は自分以外の者に容赦ないと思う。
三成と違うのは、三成は誰彼構わず容赦ないのに、政宗はどうでもいい人にまでわざわざキツイ物言いをしないところだ。だから敵を作らない…三成ほどには。でもそれはもしかしたらあくまで自分目線であって、欲目が混ざっているのかな、とも思う。
だってそう思ってもおかしくないくらい、政宗は自分には本当に優しい。
弁も立つし頭の回転も速い、プライドも高い政宗だが、幸村との雲行きが怪しくなると絶対にすぐ謝ってくれる。
ケンカのきっかけは幾らでも挙げられるが、根本の原因の殆どは政宗の言ったことに幸村が口を挟もうと思ったらもうタイミングを失っていて、そのことで幸村の機嫌が悪くなって、言い方が自然冷たくなって、そんな感じだ。
幸村は何も政宗の言ったことに腹を立てているのではない。タイミングを計れなかった自分にも腹が立つし、自分の言葉を待っていてくれなかった政宗が嫌なのだ。
前者は兎も角、後者は完全に八つ当たりである。
ただの我侭だ。全然大人しくなんかないじゃないか。
義!しか見えない兼続や、横柄過ぎる三成の方がまだ人が出来ているような気分になってくる。なのにそんな自分が頬を膨らませると政宗はすぐ頭を下げてくれるのだ。
「何じゃ、儂が理由も分からず謝っておると感じるから腹が立つのか?」
ぶるぶる、と幸村は慌てて首を振った。
そうではない、こういう言い方は自惚れている気がして非常に恥ずかしいのだが、政宗はそんなおざなりに自分を扱ったりなど絶対しない。とりあえず謝ればいいだろうなんて絶対思ってない。
「儂も信用されたものよのう」
政宗はそう言ってにい、と笑う。上手く言えないのだが、格好良くて腹が立つ。ああ、そうだ。多分それだ。政宗は自分に格好悪いところなど絶対に見せない。我侭な自分に引き摺られて同じレベルで腹を立てるなんてこと絶対しない。今だって、幸村が一生懸命恥ずかしいことを言ったのに、当然のような顔で笑って受け取るだけだ。
一緒に慌ててなんか、くれない。
「あのな、お主は何か勘違いをしとらんか?」
だって、見たことないんです。政宗どのが私の為に動揺したりするところ。私が怒ってもあなたはさらりと機嫌をとってしまわれる。
何だか自分だけが必死になっているような気がしてしまうのですけど。
「どうしたら満足じゃ?」
例えば、必死に言い訳とかしてくれればいいのに。
怒った自分の顔色を窺いながら、おどおどと下手な言い訳をしてくれればいいのに。「許してくれ、幸村」と懇願されたらきっと自分は凄く嬉しい。政宗を許す権利をもっている、みたいで。やっと優位に立てたみたいで、そうしたらきっと何でも許してしまうのに。
「…そんな権利、ずっと前からお主はもっておるのじゃぞ?」
いいえ、持っておりませぬ。やけにきっぱり言い切る幸村に政宗は苦笑いしてみせる。
「許せと頼んで許さぬと言われたら?だらだら言い訳するより、儂はまず幸村の機嫌を直して安心したい。お主に嫌われるかもなどと一瞬たりとも思いとうはない」
そう言って政宗は幸村の髪を梳く。
「出来る限り格好悪いところは隠したい。ずっとお主に好かれていたいからのう」
格好悪くたって嫌いになんてなりませぬ。もっと甘えてください。我侭を聞かせてください。それから私の為に必死なところも見せてください。私は無様なくらい見せておりますのに。
「儂は必死にそういうところを隠したいのじゃ。それでは駄目か?そのくらいせねば儂はお主と釣り合わぬと本気で思っておるのじゃぞ」
そんなこと言いながら優しく髪を撫でられるなんてところがもうあり得ない。ふくれてみせる自分の顔を覗きこんで、小さく笑うその仕草が悔しいのだけど格好良いではないか。そう訴えたら政宗は小さく息を吐いた。こればかりは譲れぬ、平行線じゃ。だが、まあ、悪い気分ではないがな。
「お主は儂のことを好きすぎるのじゃ」
そう言って幸村の頬を軽く抓る政宗が、少し照れているように見えたのは、気の所為だっただろうか。
去年の9月くらいから1月半ばまでの拍手でした。
政宗の格好良いところを一生懸命考えていたような…気がします…いえ、格好良いとは思うんですか如何せん(笑)
(09/01/19)