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※あの名作のパロですよ!(分かるよ!)にょた注意。

 

 

「これは、何だ」
 
ことり、とおもむろに目の前に置かれた椀に一瞬視線を移すと、三成は兼続に胡乱な眼差しを向けた。並々と湛えられた椀の中の液体がそれに呼応するかのように、たぱん、と揺れる。
 
「これは何か、とはご挨拶だな、三成!お前の洞察力のなさには呆れて物も言えんぞ!」
 
大降りの椀の中の水――そう、無色透明で異臭なども感じさせないその液体は、何も言わずに出されたら只の水だと思い気にも留めないに違いない。問題は、それを持ってきたのが、あの直江兼続だということだ。
 
「物を言えんと言いながら喚き散らしているではないかと突っ込むのも面倒だ。だから何なのだ、それは」
面倒と言いながらちゃんと突っ込んでるじゃないですか、殿。
三成の隣に座らされた左近は既に及び腰で、隙あらばこの場を辞そうという魂胆が丸見えだ。いつでも逃げ出せる中腰のまま、三成に突っ込む。
 
「ふむ!これは唐より取り寄せた不義の水だ!全くこんなものが存在するとは大陸は広いな!私の心のようだ!」
「不義の水?」
「義の水じゃなくて、あえて不義ですかい」
 
何だか新興宗教とかで有難がられる胡散臭い水みたいですね、殿。そうだな、そのうち義の壺とか毘の招き猫とか売り出しそうな勢いだ。まあ宗教は稼げますからね。そうだ左近、しかも税金はかからぬときている。
 
そんな遣り取りをする佐和山主従など何処吹く風、今日も絶好調の兼続は、その不義の水とやらに波立ちそうな勢いで朗々と語りだす。
 
「出入りの商人から譲って貰ったものなのだがな!不義の水の始末に困って、義に篤いと評判の私の智恵を借りたいという顔をしていたものだから、一晩その商人と語り合った結果、やはり私が持つに相応しかろうということで、私の中で話が纏まった!不義と聞けば当然この世から滅すべきものであろうが、困ったことにまだまだ未熟な私は、何をもって不義という不名誉な名をこの水が冠することとなったのか、好奇心も抑えられず、こうして三成のところに持ってきたという訳だ!」
 
全然要領を得ない内容だが、つまり商人だか誰かから兼続が有無を言わさず引き取ったものらしい。一晩義トークに付き合わされた商人には本当にご愁傷様なことで。
そう心の中で合掌した左近は、いきなりの兼続の怒号に飛び上がった。
 
「さあ、一気に飲み干せ、左近!」
「ええ!俺ですかい?!」
 
「当然だ!この私は明日の上杉を担う敏腕宰相!そして三成はこう見えても曲がりなりにも治部ではないか!この水によってどうにかなっても世間様に支障がない人物はそなたを置いて他にはない!」
 
見ず知らずの商人に同情している場合ではなかった。
俺だって一応石田家、ひいては豊臣の世に地味に貢献しているつもりなんですが。そう叫んだのだが、後ろで束ねてある髪の毛をむんずと掴まれ、口に椀を押し付けられた。今、口を開いたら、終わりだ。
不義の水など信じている訳ではないが、兼続が供するものは何一つ体内に取り込みたくないのも人情だろう。口を真一文字に結び、助けを求めるように主の方を向いたのだが。
 
「ちょ、殿――!何一人で仕事に戻ってるんですか!」
 
肝心の主は兼続襲来によって中断された仕事の続きをしようと、文机に向き直ったところだった。
 
「俺ではなく左近に用があるのなら、俺は参加せずとも良いのだろう?」
 
戦場で幸村を誉める時くらいしかお目にかかれない良い笑顔で言い放つ三成が憎い。いいから助けてくださいよ!と叫ぼうとした瞬間、口に再び椀が押し付けられ、左近は慌てて顔を背けた。これでは掴まれた後ろ髪が痛いと文句を言うことも出来ない。
絶体絶命の左近を救ったのは、襖をぶち破りながら乱入してきた独眼竜だった。
 
「貴様ら!少しはその口を閉じてられんのか!ギーギー耳障りじゃ、馬鹿め!」
 
右手に短銃を握った政宗の左腕を、幸村がしがみ付くように押さえている。大方、大坂城内で逢引中、響き渡った兼続の声に業を煮やしてここまで怒鳴り込んできたのだろう。まあ、襖は出来れば破らないで欲しかったが。
冷静にそんなこと分析している場合ではないのだが、正直「政宗さんグッジョブ!」と左近が思ってしまったのも無理ないことであろう。
 
「おお!これは山犬ではないか!良いところに来たな!ささ、そのように叫んでいては咽喉も渇くであろう、これを飲め!ぐぐっと!」
 
ぐいぐい椀を差し出してくる兼続の言うことを、犬と猿以上に仲の悪い政宗が素直に聞く筈はない。
「いいから飲め!」「誰が飲むか!」「不義のお前なら難なく飲める筈だ!」「さては毒か?儂はもう毒は飲まん!」そんな遣り取りにいい加減堪忍袋の緒が切れたのか(三成のそれはもう三度は切れているし、左近だってすっかりコマ切れなのだけど)兼続が大きく椀を振りかぶり、投げた。
 
「おおっとお!この私の義の右手が滑ったあ!くらえ、山犬!」
 
そろそろこいつの義について、俺は認識を全力で改める必要がありそうだ。今更ですか殿。だからお友達は選んでくださいと左近は申し上げたんですよ。何を、左近の癖に生意気だぞ。
時間にして僅かコンマ数秒の間に目と目でそんな言い争いをする佐和山主従の目の前で、綺麗に放物線を描いた椀が、中身をぶちまけながら政宗に直撃する。筈だったのだが。
 
「政宗どの!危ない!」
 
政宗の左腕を思い切り引っ張った幸村の後頭部に、からん、と何処か侘しい音を立てて椀が当たり、床に転がった。ついでに幸村の馬鹿力で政宗も頭から床に転がった。
不義の水とやらをもろに頭から被り、正に水も滴る何とやらになった幸村が、自分の頭をさすりながら顔を上げる。
 
「…痛っ…お、お怪我はないですか?政宗どの」
 
水を拭いもせず政宗に駆け寄ろうとした幸村を見た三成が、息を呑んだ。
先程主から見放され、心の何処かで、ちょっと痛そうではあるがあんな風に身を挺してでも守ってくれる人がいる政宗は羨ましいなとぼんやり思っていた左近も、息を呑んだ。(いや、主を身代わりにするのは良くないが)
兼続だけが「なんと!」と嬉しそうに感嘆の声を上げる。
 
「政宗どの、すみません。手加減できずに思い切り引っ張ってしまって」
幸村に支えられ「大丈夫じゃ」と首を振り身体を起こした政宗まで、阿呆のように口を開け固まった。
「ゆ、幸村?」
「はい…あの、何か?」
 
足を投げ出して座り込んだ政宗の横にきちんと正座し寄り添った幸村が、政宗を見上げた。そのまま誰一人動かない。兼続までもが黙り込んで事の成り行きを見守っている。
一人状況を察していない幸村が、首を傾げながら政宗を見上げ。見上げ?
 
「あれ?政宗どのが大きく?」
 
そう言いながら政宗の方に伸ばした自分の腕を見て幸村はぎょっとした。
袖が、余っている。自分の思い通りに動くのに、何処か違和感ある指。
「政宗どの?」再び呟いた声は聞き慣れた己のものではなかった。慌てて視線を真下に移すと、緩んだ襟の隙間から、あり得ないものが見えた。
 
「っ…な、何か、え?ええ――?!」
 
声にならない叫び声を上げながら、自らの全身をぺたぺたと掌で触って改める。姿見を持ってくれば早いだろうという常識が残っている者はこの場に一人として居なかった。
皆、幸村の奇行を只見守っているだけだ。
 
「え、ちょ、え?ど、どういうことでしょうか…」
答える者の居ない問い掛けを発しながらぐるぐると帯を解く。そりゃもう吃驚するくらい男らしく己の着物を肌蹴させ、幸村はこう叫んだ。
 
「わわわ私はおなごだったのですか?!」
 
 
 
 
 
「何とも良い眺めだが、風邪を引くぞ幸村」
そのままたっぷり数刻、水を打ったように静まり返っていた三成の部屋は、兼続の一言で再び大混乱に陥った。
 
「な!見るな!貴様ら見るな――――!」
「こりゃまた…何と言ったらいいのやら」
「不義の水とはこういうことか?兼続」
「成程!自然の摂理を歪め性別を変えてしまうとは、正に不義の水!」
「だから見るな―――!目ん玉穿り出すぞ、貴様ら!」
「政宗どの、私は一体!」
「それを貴様が言うか山犬!いやいやしかし、少々小さめとは言え立派な乳だ、幸村!」
「兼続!このイカめが!」
「政宗どの!これは、私は、どうしたら?!しかも小さいのですか?!」
 
思わず銃を構えた政宗に上半身剥き出しの幸村が正面から縋り付き、政宗はそのまま床に押し倒された。性別が変わろうとも馬鹿力は顕在だったらしい。
私は本当はおなごだったのですか?政宗どの!そう叫ぶ幸村を片手で押しやり鼻を押さえながら、まずは着物を直せと命じる。鼻を押さえているのは頭を二度も打った所為か、それとも幸村の感触をちょびっと味わってしまった所為か、少々気になった三成だが、どちらにしてもさしたる問題ではないと思い直し尋ねるのはやめた。
そうこうしているうちに、婦女子たるもの上半身を曝け出していては良くないという世間一般の概念にやっと気付いた幸村が、もそもそと着衣を直す。慣れぬ体型故に手間取っている様がはらはらさせるのか、少し大きめの着物が色々そそるのか、単にガン見したいだけか、暫く幸村から目を離さずにいた政宗だったが、幸村が再び腰を下ろしたのを合図にようやく兼続に詰め寄った。政宗の目は当然据わっている。
 
「兼続、貴様に聞いたところでまともな答えが返ってくるとは思えぬが一応聞いておく。これはどういうつもりじゃ」
「山犬にしては良い質問だ。かつて女が溺れ死に、その悔恨が濃く溶け出しているという不義の水らしい。私もその効能についてはさっぱりであったが、それについてはこうして解決をみた!礼を言うぞ、幸村!」
「…そこまで知ってて人に飲ませようとしたんですかい」
「そうだな。あの時左近が口にしていたらと思うと、さすがの俺も怖気が止まらぬ」
 
そんな話、今はどうでも良いわ!黙らぬか!政宗の怒鳴り声に被せるように幸村が小声で尋ねた。
 
「で、私はどうしたら元の姿に戻るのでしょうか?」
「はっはっは!それは私の知をもってしてもさっぱりだ!」
「な!兼続!」
元気良すぎる兼続の応えに、全員が腰を浮かす。
「あんた、そんな怪しげなものを人様に向かって勧めたんですかい?」
 
一歩間違えれば自分は今の幸村の立場だったのだ。政宗のように幸村を思っている訳でも、主のように猫可愛がりしているのでもないが、いくら何でも他人事とは思えない。
まあ性別が変わってしまうことがどういうことなのか実感としては見当も付かないが、それでも左近の常識が兼続のその答えは普通に無しだろうと判断を下したのだが。
 
「何を言う!私は元に戻る方法どころか、その効能も知らなかったのだぞ!軍略家を名乗っておきながら何でもかんでも私の溢れる知に頼ろうとするな、この不義め!」
 
逆に叱られた。
左近より少々兼続との付き合いに慣れている三人は、兼続をすっかり無視して、幸村の身体にその他の異常が無いかの確認に余念がない。
 
「きちんと身体は動くのだな?」
「はい、それは…ええ、大丈夫のようです」
「気分が悪かったりはせぬか?」
「特にそういった心持ちは致しませぬ」
腕をぱたぱた動かしてみたり、小さくその場で跳ねてみたりする幸村ごしに三成が、未だ続く兼続の説教を遮るように言った。
 
「左近、何を遊んでいる。貴様もこの状況を打開する策を考えぬか」
 
…一万五千石じゃ安かったかな。そんな呟きを誰一人とて拾ってくれる者は居らず、いい年こいて左近はその場に突っ伏して泣きそうになった。

 
 

 

 
 

長くなったので一先ず切ります。もう当たり前のように続きます。
まろ師匠と「幸村もにょたも子供も猫耳も捨てがたい」と話してて、何故か「そうだ、ら○まだよ!」と。
今メール確認したら、もう半年もおいら達はそんな話で盛り上がってたんですね…。すいません、師匠。
YOU書いちゃいなよ、と言われ、ずっとずっとごにょごにょやっておりました。大変お待たせしました。待たせた挙句、これか!残念賞!
(09/02/20)