コレと微妙に続いています。が読まずとも全く問題ありません。幸村サイド。




それで良いのか、とはどういうことにございましょう?如き、と貴方様に仰られますと私も辛いのでございますが、それはあの方「如き」に恋情を抱いて後悔しないのかという意味でしょうか、それとも止めておけという警告でしょうか、はたまた単純に幸せかどうか質問なさっておられるのですか?
ええ、幸せか不幸せかということでしたら、間違いなく私は幸せだと思うのです。


「…それはそうかも知れんが、あ奴如きに」
私の、友の心を奪われるのは不快でございますか?今は遠呂智軍の中核を担っているであろうあのお方に。
「兼続も、知っているのか」
はい、あのお方はそれはもうずっと前からご存知でいらっしゃいました。私が誰を見ているかなんてあの方には文字を読むことより簡単な事だった様にございます。
「此度の事、兼続は何と言った」
何もかも包み隠さず打ち明けた私をご覧になって、只笑っておられました。清々しい笑顔でございました。私はそれを拝見して随分心が痛んだのですが、そのことについても兼続殿は笑っておられた様でございました。そして「やっとお前はお前自身を知ることが出来たのだな」と仰いました。
「何故心が痛むのだ。兼続が不義と嫌うあ奴とそのような事になったからか。それとも今は敵対している者を憎からず思っていることについて後ろめたさがあるからか」
それは誤解にございます。私が心痛めたのは、兼続殿がそのように私を分かってくださる事についてでございます。いえ、理解しようと労力を割いてくださる事に、でしょうか。
そうですね、三成殿は私と兼続殿、どちらがお好きでございましょう。
「…お前と兼続を比べた事など無い。友を…比べるなど俺には出来ぬ」
では私と左近殿では?このような譬えは不敬に過ぎますが、忠義という言葉を抜いたら秀吉様とおねね様では?
「秀吉様への忠義も左近への信頼も同列に語ることなど出来ぬ。仮にそうせねばならなくなったら状況によるのではないか?」
ええ、そうです。三成殿の仰ることは正しい。でも比べましたでしょう?一瞬、秀吉様と左近殿を頭の中で比較なさったでしょう?そして比べられぬと判断を下されました。
私も三成殿と兼続殿を比べることなど致しませぬ。秀吉様への恩義とお館様への忠義、どちらがどうと量るなど本当に愚かしいことです。
しかし私はあの時、あの方が私の手を取った瞬間に世界を切り取ったのでございます。世界の全てを。私と、あの方と、それ以外の全てという三種類に分けたのです。そして印をつけました、決して間違えぬよう。私に、そしてあの方に。印の無いものは世界に数多とある何か、私とあの方以外の何かでございます。
「それが俺や兼続ということか、幸村。それにどういう意味があるのだ」
分かりませぬか?私はあの方に支配される代わりに、世界を支配することを始めたのです。私の価値を通して世界を見ることを決意したのです。あの方の居る世界を。三成殿や兼続殿も居られる此の世を。先程も申した通り、お二方を比べることなど二度と私は致しません。状況如何に関係なく。三成殿や兼続殿、お館様、いえ真田の名も、私にとって印のついていないものは世界に存在しているという以外の意味を無くしてしまったのです。なのに兼続殿はそれすら知って優しく笑ってくださるのです。
「お前はあ奴さえ居れば他はどうでも良いと言っているのか?」
いいえいいえ。どうでも良いなどどうして言えましょう。あの方が居られる世界を形作る様々なものは、私が守らねばならぬものです。私はここでやられる訳にはいかないのです。私の手で世界を守らねば。
「幸村、お前は確かに強い。だが世界を守るだと?そんなことは夢物語に過ぎぬ。己の分も弁えずそのように言っていると足元を掬われるぞ」
ですから申し上げたではないですか。私は世界を切り取り支配したのだと。私が一番大事にしているものが何か分かりますか、三成殿。私はあの時やっと自分を見つけたのです。あの方が私を抱いた時、私は自分が存在していることをやっと知りました。それが世界の全てになりました。私は何を引き換えにしても自分を無くしてはいけないのですよ。あの方の為に。あの方に繋がる全てのものを。
「俺には分からぬ、幸村」
どうぞ分かってくださいませ。あの方が生み出してくれた私を守らせてくださいませ。
「ならば何故お前は奴と刃を交える?わざわざお前が前線に立つことはないではないか。
 俺は…お前はどう思うか知らんが、少なくとも俺は好いた相手と戦うことでお前が傷付くのを見たくはない」
私は傷付きませんし、負けることもございません。私が負けたら、いいえ死にでもしましたら、あの方の世界はどうなってしまうでしょう。
「…あいつはお前と戦う気なのか?」
そのように苦しげに仰らないでくださいませ。三成殿のお心遣いを嬉しく感じることは出来ますが、私は貴方様のその痛みに既に鈍感になってしまっております。貴方様に印が無い、只世界を構築する数多のものというだけで。
ああ、しかし、その質問に答えるのであれば、あの方は当然私と戦うつもりでございましょう。
「奴はそれで良いと思っているのか?」
勿論ですとも。あの方はその為に此処を出て行かれたのです。遠呂智の許に行かれたのです。あの方にとって世界と私は同じ、私が居るならば世界などどうでも良いと仰っておられる。自らの足元を崩してでも、確固たる私の存在を求めておられるのです。
私は違います。私は、私と世界を並べました。無くしてはいけないのは私、次にあの方。世界?それが私の決めた世界です。ならば私が決めた順序に何の間違いがございましょう。


「やはり俺には全く分からぬ。幸村は、それで良いのか?」
それで良いのか、とはどういうことでございましょう?ええ、幸せか不幸せかということでしたら、間違いなく私は幸せだと思うのです。


恋とか愛とか、それは熱に浮かされた頭で考えるべきだったのです。自分が存在していることも知らずに過ごしていた私は、さぞ幸せに見えていたでしょう。いつかその存在すら奪われる可能性に気付かず、あの方と世界を分けることもなく、全てを慈しみ自意識などなく、只々あの方を見詰めていれば充たされたあの日々。あの方は私の全てで、あの方が世界そのものでした。あの方が私をどう思っていらっしゃるかなんて関係なかった。
でもふと、熱が通り過ぎた頭であの方と向き合って、私は、どれだけ私自身があの方に愛されているのかを知ってしまいました。私は、自分があの方にとってどれだけ大事かを分かってしまいました。私があの方を見詰めていたように、あの方にも私と同じ気持ちがあることを気付いてしまったのです。
ああ、私はあの方の世界になったのだと思いました。自分と引き換えにあの方を守ろうとしていた私は、なんて迂闊で愚かで傲慢で、そしてそんな私に世の中はなんて優しかったのでしょうか。
見詰めているだけでは駄目だったのです。そうして取り戻せない熱に気付く悪夢のような幸せ。ええ、私は本当に幸せです。こんな幸せな私を作ったのはあの方なのですから。


好いて好かれた人が出来ると弱くなる?そんな陳腐な結果論などいりませぬ。私が欲しいのは私を得たことで生まれたあの方の弱さ。私もあの方も同じ物を求めていることなど敏いあの方は疾うにご存知でしょうに。それでもあの方は、ご自分や世界を引き換えにしても私を守ろうと仰るのです。世界からもあの方からも切り離される私をそれでも愛すると譫言の様に口になさるのです。私との恋に逆上せている振りをなさるあの方の弱さ。なんてお可愛らしい政宗どの。私が欲しいのは只それだけなのです。




一過性の熱みたいな感情がなくなった後で、尚も好きで居続けることについて、こう色々と。うん。
互いの関係において、最初に本気で幸せについて考えてそれを何とか頑張ろうと思ったのはどちらかというと幸村かな、と思ったのでした。
幸村がイタいかどうかは…うん、まあいいや(笑)ただ幸せなダテサナであろうとはしました。

一応再臨のつもりですが、何故三成と兼続と幸が一緒に居るかは私にも謎です。だめじゃん。
(08/06/14)